楽は歩いていた。
足を引きずるようなみっともない真似はしない。
ところどころで見かける瓦礫を逐一どけて、道を作り直したりと、後の修復が楽なように楽は動いていた。
少し休むために、座り込めば、なぜか笑いが込み上げた。
何に対する笑いなのかは本人にも理解できない。
笑いながら起き上がり、もう少し先の地点に目をやれば、水浸しになっている。
なぜ水浸しなのか考察してみるが、よくわからない。
周囲に人が倒れている。
起こしてみようと楽は近づく。
「あのー、どうかしたのかな?」
楽は比較的外面を装った口調で尋ねる。
何かあった時のために、電気棒はしっかりと握りしめている。
「ん、うう……え?」
研究員とおぼしき男は情けない声をあげて起き上がる。
焦点はしっかりとあっている。
正気だろう。
楽は男にもう一度話しかける。
「ここ、水浸しなんだけど一体何が」
「はっくしょん!」
漫画みたいな声をあげ、男はくしゃみをする。
楽はあっけにとられてぼんやりと男を見た。
「あの、何が」
楽はもう一度同じ質問を繰り返す。
「ああ?よくわかんないよそんなの。気がついたらここで倒れてたんだし」
楽はふうん、と小さく呟くと、男に他に現状を報告しに行くように指示した。
男は釈然としない様子で歩いていく。
さすがにこのままだと誰かが滑る。
楽はそんなことを考えながら、立ち去っていった。
続く