隔離するχ
「ああ、でも結構広域……」
憂はぼそぼそと独り言を呟いていた。
涅槃から手渡された催涙剤は、現在少々大きめの瓶に詰められて、手のひらの中にある。
薄暗い赤色を呈する試薬は、人間に対して使用するという配慮がほとんど無いらしく、先ほど詰め替えをするときに少しだけ揮発したものが目に入ったのだが、それだけで涙が漏れた。
危険だ、これを何の防御も無しに使うのは危険すぎる。
防犯対策にしては厳重すぎるし、おそらく涅槃のことだから実験も兼ねているのだろう。
適当に推測を立てて、憂は新たに探すべきものを2つ考えた。
一つはゴーグル。
これがあれば目がやられることなくこの劇物を使いこなせるだろう。
もう一つはマスク。
出来るだけ丈夫な、ガスマスクのようなものが良いのだが、この研究所にそこまでのものがあるだろうか。
憂は考え事をしながら倉庫の区画へ歩いて行く。
ふらふらとした足取りは睡眠不足を思わせ、だらりと垂れた黒髪はさながらホラー映画である。
第一倉庫、第二倉庫と中身を探り、第三倉庫には2つの欲しいものが置いてあった。
憂は念願のものを手にいれたにも関わらず、つまらなさげな表情を浮かべていた。
ここからまた面倒が起きるのか。
そう考えると元々ネガティブな思考回路が更に暗鬱な方向へと転落してゆく。
憂は白衣のポケットに、医療用のマスクと、実験用のゴーグルを適当にねじ込んだ。
目的の品は手にいれた。
後はゆっくり時間を待とう。

続く
prev nextbkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -