白と黒のδ
準備は出来ている。
情報伝達は素早く、迅速であり、此処までに不都合はない。
ちょっとした想定外があったが、その程度のことだ。
はいじま涅槃は虚空を眺めながら、白と黒の駒をもてあそんでいた。
特にすることがない、という訳ではないのだが、少し退屈なのだ。
黒と白で形成されたこの駒はつくづく自分と似ていると考える。
「喜、少しいいですかねぇ……」
喜、と呼ばれた人間は、それまで置物のように室内に立っていた。
表情は常に笑っているようなもので、身動きを少しもしない様子はさながら不気味である。
奇妙なことに、涅槃と喜は顔が非常に酷似している。
髪の短い喜は、涅槃の声に静かに耳を傾けている。
「……お客様がくるそうなんですよぉ……歓迎、できますよねぇ……?ふふふふ」
くすくすと笑う涅槃は喜とよく似ている。
喜も呼応するかのようにくすくすと笑う。
「それよりオセロがしたいなぁ、なぁんて」
その言葉を聞いて、涅槃は回していた駒をぴたりと止める。
「……いいですよぉ…………愚生の方が強いんですがねぇ……」
ポケットからマグネット式のオセロの板を出す。
涅槃は暇ではなかったが、少なくとも何も起きていない今は暇だった。
着々と、不安の種が根付くのを実感しつつ、彼はぱちりぱちりとひっくり返されるオセロを楽しげに眺めていた。

続く
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