※大学卒業後

わたしたち、結婚しました!と薄っぺらい紙の上で彼女は笑っていた 決して薄っぺらくないその微笑みは学生時代に何度も夢に見たそれと寸分違わないそれでありあたまとこころとからだとを全て奪われたそれでありその笑顔は胸の奥の奥でひっそりと眠っていた痛みを再び思い出す筈のなかった痛みを呼び覚ました したためられた文章はもう意味をなさずまずは単なる文字列へそして最終的にはよく見慣れた数字たちによる行列となって目の前を通り過ぎて行く 歩みは遅くその列は葬式に参列する者たちのそれであり葉書で笑う彼女には全くもって不釣合いな行列だなとぼんやりと思った 気がつけばひとり薄っぺらく微笑んでいた

ぽたり と落ちて彼女の頬を濡らすものは何だ 彼女にそんな思いをさせてはならないと赤の他人である俺は思う 赤の他人 赤の他人である ぽた 同じ赤なら小指にかけて欲しかった 何故赤い糸で繋がる相手は運命の相手であるのに赤い色をした他人は全くの無関係な人間なのだろうか ぽたりぽたりと音をたてるそれに依って明白なる赤の他人たる俺の視界は滲み歪んでおり目の前に広がる色は何も無い 無色透明 無害極まりないはずのその色であった 有るが無いで無いが在った 無い色をもったそれは頬を濡らしながらみるみるうちに大きな海となる こころの膿も倦みも全てを飲み込んでくれる大いなる海 全てに始まりと終わりをもたらす海 そのまま飲み込まれたいと願えばゆっくりとその通りになり酸素は忽ちに奪われてゆく いきがくるしい いき・・がくるしい そうだ 目を 目を閉じてしまおう辛い目も悲しい目も全ては目から来た用法なのだから目を閉じてしまえば目をなくしてしまえばもう何に遭うことも無いに違いない 勿論 彼女に会うことも 無い


どこまでも沈んでゆけそうだった 全くの誇張もなく ただ 溺れ死にたいと思った






(働き始めた一人暮らし明神のもとへ学生時代ずっと片思いしてたみどみどから結婚しましたのおはがきが届いたよってはなし ウツダネ)

出来次第(明神堅梧→緑主)
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