「お母さんとお父さんは、なんのお仕事をしてるの?」
娘にそう聞かれて智己さんと顔を見合わせて、なんて言おうか少し迷う。いつかこんな日が来るとは思っていたけど、いざその日を迎えてみると唐突に感じてしまう。
昔ほど潜在犯の子供に対する偏見はなくなっているそうだけど、真実を言うにはためらいがある。小さなこの子だって自分が一般的な家庭と違うのは感じ取っているはずだ。智己さんはしゃがみこんで可愛いリボンで結んだ頭をなでて、ゆっくりと真実を告げる。
「俺とお母さんはな、執行官ってのをやってるんだ」
「しっこうかん?」
「そうだ。難しいか?」
「ううん、お仕事はみんなびょうどうって学校で言ってた」
「そうか」
目尻をさげて笑う智己さんは、わかりやすくも肝心なところをごまかしながら仕事の説明をした。こういうとき、征陸さんがいかに刑事に向いているか実感する。そう言うと本人は笑うばかりで何も言わないけど、私はやっぱり、智己さんが刑事という仕事を選んだことは間違っていないと思う。
「事件を解決してるんだ。わかるか?」
「しゃけ?」
「しゃけじゃない、事件だ」
「しゃけ好き!」
にこにこ笑って抱っこをねだる娘は、確実にファザコンだ。智己さんの腕のなかで嬉しそうにする笑顔とは違い、抱き上げている智己さんはすこし辛そうだ。成長した体は重いだろうに、何も言わずに抱き上げるあたりが愛情なのだろう。
それから数日後、ビシッとスーツを着た一係全員で、授業参観のため小学校の教室へと向かった。狡噛さんだけは着崩しているが、縢はネクタイをきっちりとしめている。珍しいこともあったものだが、私もスカートをはいているからお互い様だろう。こっそりと宜野座さんがカメラを構えたのがわかったように、見慣れた後ろ姿が椅子から立ち上がって作文を読み始めた
「わたしのお父さんとお母さんは、きっこーまんをしています。むずかしいしゃけを救うお仕事です」
「……醤油?」
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