保健室独特のにおいと、何もかも白を基調とした部屋。どうにも慣れなくて、白いシーツと布団にくるまって、タイツに隠した書類をなでた。そういえばお風呂入ってない。明日の朝に入らなきゃ。でも着替えがない。
ぼんやりと考えながら、アルバムに貼ってあった写真を思い出す。いなくなった戦刃むくろ。写真と違う江ノ島盾子。どちらかというと、あの江ノ島盾子は戦刃むくろに似ていた気がする。何が真実かはわからないけど、江ノ島さんが怪しいことだけは確かだ。

それからうとうとと浅い眠りに落ちかけては、はっと目を覚ますことを繰り返し、モノクマのアナウンスで目が覚めた。モノクマの声で起きてモノクマの声で眠るなんて、なかなかに最悪な状況である。書類やアルバムがなくなっていないことを確認して安堵し、寝不足だと訴える頭をゆるゆると振った。このままではいつか私が参ってしまう。そうでなくても私がモノクマに襲われたりしたら、事実が誰にも伝わることなく消えていってしまう。それだけは避けなければ。
起き上がって外に出ると、そこには霧切さんがいた。眼球に張り付こうとしていた瞼が開き、ぱちぱちと現実を確認するように瞬きを繰り返す。霧切さんは昨日のように冷静に言葉を発した。



「おはよう、名字さん」
「お、おはよう」
「話したいことがあるの。いいかしら」
「うん。あ、でも私お風呂に入ってないから……それからのほうがいいよ」
「……確か浴場には監視カメラがなかったわね。私も一緒に行くわ」



親切にも着替えを貸してくれた霧切さんは、時間が惜しいというように足早に歩き出した。それについていき脱衣所に入った途端、霧切さんは無言で私に話を促した。
一人で抱え込むにも限界がある。それに、理事長の娘である霧切さんなら。書類の端々に、娘の行く末とこの国の未来を案じていた人の娘なら。賭けとも言える願いを託すため、霧切さんに謝ってからタイツを脱ぐ。そこから出した書類とお腹に入れていたアルバムと学級日誌を差し出した。



「二階のロッカーと理事長室で見つけたの」
「──そこに私の情報はある?私が、超高校級の何であるか」
「霧切さんは、超高校級の探偵だったはずだよ。ほら」



書類の中からプロフィールを探し出して手渡す。霧切さんは私の言葉を紙を、大事そうに目を瞑って受け入れた。
それから恐るべきスピードで書類や日誌を読み、私より素早く状況を把握した霧切さんは、書類をまとめて脱衣所のロッカーのなかに隠した。



「これらを名字さんが持ち出したということは、モノクマだって気付いているでしょう。でも何もしてこない」
「うん……昨日不安であんまり寝られなかったけど、誰も来なかったよ」
「あなた、鍵をかけていなかったわ。無用心よ。今日からは鍵をかけなさい」
「は、はい」
「つまり、モノクマはこの情報を私たちが知ってもいいと考えているのかもしれない。保健室は危険だから、ここに隠しておくわ。いくつかロッカーの鍵をダミーで抜いておくから、隠したロッカーの番号を忘れないで。気休め程度でしょうけど」



それから霧切さんと一緒にお風呂に入り、いまの情報から推測されることをぽつぽつと話し合った。霧切さんも消えた戦刃むくろと顔の違う江ノ島盾子が気になるらしく、その二人が共犯、あるいは江ノ島盾子になりすましている人物が超高校級の絶望である可能性があると考えていた。江ノ島盾子の顔は戦刃むくろに似ているが、まだ断定していいことではないとも。



「……日誌は間違いなく私の字だった。二年間の記憶が奪われ、世界が終わっていて、殺し合いを強要されている。簡単には信じられないけど、筋は通るわ」
「うん……そうなんだよね」
「まだ確信するには早い。ほかに情報がないか探してみるわ」
「私は、」
「あなたは足手まといよ」
「ですよねー……」



なかなかはっきりと切り捨てられたものである。苦笑いをする私を残し、霧切さんは湯船からあがった。江ノ島盾子に出来るだけ悟られないで、という言葉に頷くと、それを見た霧切さんは何も言わないで出て行ってしまった。これ以上話すことはないということだろう。
大きな浴場でばちゃばちゃと足を動かして、のぼせる前にと私も湯船を出た。空腹時に長風呂はよくないものがある。

髪を乾かすより先にご飯を食べようと服を着て廊下を出ると、不二咲さんとばったりと出会った。小柄な彼女は、私でも見下ろせて守りたくなってしまうような存在だ。……ん?でも、そういえばプロフィールの不二咲さんって、



「おはよう、名字さん」
「あ、おはよう不二咲さん」
「お風呂、入ってたのぉ?」
「うん。私の部屋は保健室だからお風呂ついてなくて。今からご飯食べに行くところなんだけど、不二咲さんは?」
「ボクもなんだ。あのぉ……よかったら一緒に食べない?」
「うん、そうしよ!」



嬉しい誘いに笑顔で頷くと、不二咲さんは頬を染めて嬉しそうに笑った。よかったぁ、と胸をなでおろす姿は可愛らしい。これは……男子を虜にしそうである。
そのあと一緒にご飯を食べている最中に石丸くんが来て、髪を乾かさずご飯を食べるとは、とお説教された。薄々思っていたけど、このメンバーって濃いよねえ。
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