言いたいだけ言って、現れたときと同じように突然消えてしまったモノクマへ注がれていた視線が、いっせいに私に降り注いだ。呆然とする私を見てくる顔と名前は一致している。プロフィールで見ている通り、だが……戦刃むくろが、いない。きょろきょろと何かを探すような視線に、手を差し伸べてくれたのは一番髪の毛のボリュームがある葉隠くんだった。



「立てるか?」
「……あ、りがとう」
「まあこれもドッキリみたいなもんだろ。そのうち種明かしされるべ」
「そう、かな」



まだ決定的な証拠が見つかっておらず、その言葉を信じたくなるような状態では、彼の言葉を否定も肯定も出来ずに曖昧に笑う。私に話を聞きたいけど全員が揃っているこの状態で聞くつもりはないらしい霧切さんは、鋭い視線で私の一挙一動を観察するように見ていた。
その後ろで疑るように鬱々とした視線で見てくるのは、腐川さんだ。確かジェノサイダー翔とかいう殺人鬼……だったはず。いまいち実感は出来ないけど。立ち上がってスカートを払う私を見て、十神くんが眼鏡を上げながらぎろりと睨みつけてきた。



「お前は超高校級の偶然か。幸運といい偶然といい、己の力で手にしたものではない超高校級か。……まあいい。それよりモノクマが言っていた、タイムマシンというのは本当か」
「わからない……学校帰りに歩いていたら突然めまいがして立っていられなくなって……気付いたらここに」
「では貴様は外のことを知らないというのだな」
「残念ながら」
「使えん」



それだけ言うと、十神くんはさっさと体育館を出て行ってしまった。彼は確か、超高校級の御曹司だったはずだ。態度の大きさもそれを裏付けているように見える。
ぼんやりとしながら無意識のうちに今までの出来事を整理していると、後ろから声をかけられた。明るい声を発したのは、髪の毛がどうやって重力に逆らっているかわからない朝日奈さんだった。いたわるように背中を撫でられて、自分でもわかるほど力のない声で大丈夫だと告げる。



「私たちも最初そんな感じでさ……少し落ち着いて建物のなかを探索して、報告しあうところだったんだ。一緒に行こ」
「……うん。ありがとう」
「そういえば自己紹介がまだだったよね!私は朝日奈葵。超高校級のスイマーだよ!」



それから報告をする食堂へ行く道すがら、みんなは一人ずつ自己紹介をしてくれた。プロフィールを見て知っているとは言わず、初めて聞いたように頷く。それにしても、超高校級というすごい人たちがこんなにいるなんて、日本もまだ捨てたものじゃない。……世界は滅びているかもしれないけど。

食堂に着き、それぞれが何を調べてきたか聞きながら、霧切さんと話していたときの違和感が大きくなっていくのを感じた。今から希望ヶ峰学園に入学しようとしていたときに目眩に襲われ、気付けば持ち物をすべて失いここにいた、というのが共通している始まりらしい。それなら、あの書類と学級日誌とアルバムは?考え込む私に気付いたのか、苗木くんがおずおずと顔を覗き込んできた。



「どうしたの?何かあった?」
「……本当に、今日はみんなが希望ヶ峰学園に入学する日だったのかな」
「どういう意味?」
「私は……本当かわからないけど、タイムマシーンでやってきたから今の状況がわからない。見る限りカレンダーや携帯なんてないし、私は今が春だということさえ、自信を持って言えない」



ハッとしたような空気が漂うなか、いつの間に来ていたのか、十神くんが「なるほどな」と呟きながら笑った。楽しくて口角が上がるのではない、人を小馬鹿にした際に思わず漏れたと言わんばかりの笑みはすぐに消える。十神くんが何を考えているかわからずに聞こうかとも思ったが、霧切さんが話しだしたことで意識はそちらへ向いた。



「確かに名字さんの言うとおりだわ。私たちは何の根拠もなく、今日が入学した日だと思っていた」
「きょ、今日が春でないなら、い、いつなのよ!デタラメ言ってんじゃないわよ!」
「私たちはいつの間にか眠ってしまっていた。目覚めるのが数時間後でも一年先でも、私たちはそれを知る術がないわ」
「では……仮にわたくしたちが目覚めたのが数週間後だとしましょう。それを知る手がかりはどこにあるのでしょう」
「わからないわ。すべてはモノクマが握っている」



大きな縦ロールがお人形みたいな白い肌をふちどっているセレスさんは、動じた様子もなく「それもそうですわね」とあっさりと言い放った。適応しなければ死ぬだけだという彼女の目は暗く引き込まれるようで、誰かがごくりと喉を鳴らしたのがやけに耳についた。

慣れない者同士では、いくら人がいても話すのは躊躇われて沈黙が支配する。霧切さんの眼光が私を捕らえ、何かを言おうと口を開けた瞬間、モノクマが飛び出してきた。驚いて思わず横にいる人の服を掴む。



「じゃじゃーん!はい、名字さんの生徒手帳だよ!」
「……生徒手帳?」
「ここにいる間は生徒として取り扱ってあげるよ、ボクは優しいクマだからね!それに……絶望は多ければ多いほどいい」



アーハッハッハ、という不気味な笑い声を残し、モノクマはひゅんと引っ込んだ。どくどくと煩い心臓を押さえながら生徒手帳を見ると、横から歯切れの悪い声が聞こえてきた。どうしたのかと見上げた先には、立派なリーゼントと特攻服。



「オレは別にいいんだけどよ。服……」
「あっ、ごめんなさい」



慌てて服を離すと、いい、というぶっきらぼうな声が聞こえた。超高校級の暴走族であるはずなのに、その顔はほんのり赤い。もしかして初心なのかもしれないと顔を見ているうちに、セレスさんから夜時間の出歩きは禁止にするという提案が出された。それに全員が賛同したところで夜時間の始まりを告げるモノクマのアナウンスが聞こえ、適当に食べられるものを急いで確保したうえで解散した。
私からいろいろ聞き出したいであろう霧切さんの視線にはあえて気付かないふりをして、おやすみを言い合って一人反対の方向へ歩き始める。ごめんね霧切さん、私にもすこし情報を整理する時間がほしいの。
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