「俺は凰壮。あんたが名前だな」
「虎太だ」



竜持が株を始めて数週間後、思ったより早く貯まったお金を持って二人を買いにいった。新品の二人を大事に抱えながら帰って部屋についた途端、なんともそっけない自己紹介をされる。思わず笑いながら、竜持を買ったばかりの頃を思い出した。
そういえば竜持の第一声は「僕を買うなんて、あなたもひねくれてるか性格悪いんですね」だった気がする。私の名前を聞かれたのはそれからひと月もあとだった。最低限の知識として私の情報は知ってはいたのだろうけど、名前を聞かれるのは持ち主として認められたみたいで嬉しかった。



「なに笑ってるんですか、気持ち悪い」
「兄弟揃ってよかったなあって」
「……これも、名前さんが僕を信用してくれたおかげです」
「自分で兄弟を揃えてあげられなくてごめん。これで兄弟一緒だね」



顔をゆるませながら竜持の頭をなでると、竜持も嬉しそうに笑った。やっぱり兄弟が一緒だと嬉しいらしい。
虎太と凰壮を充電しながら、パソコンを立ち上げる。明日提出のレポートが半分残っているのだ。うまくいけば数時間で終わるだろう。



「ちょっとレポート終わらせてから二人をいじくり回すね!ちょっと待ってて!」
「いやらしい言い方はやめろ」
「おお……凰壮って口悪いね!さすが竜持の兄弟!」
「なんで興奮してるんですか」
「んー、嬉しいなって。私がいなくても寂しくないでしょう?」
「言っておきますが、携帯電話は携帯してこそなんですからね。名前さんは僕を忘れすぎです。いくら有能といえど、自分で移動することはできないんですから。名前さんは僕がいないと駄目なんですからね」
「はあい、わかっております」



本当ですか、と可愛らしく拗ねる竜持に頷いてから、教科書や本とにらめっこを始めた。もう書くことは決まってるから、あとは勢いで書き終えるだけだ。

それから集中して、あとはまとめるだけというところまでレポートを書き終えたのは、それから2時間後のことだった。すこし休憩をしようと伸びをすると、充電が終わったらしい虎太と凰壮がくつろいでいた。慣れないけど微笑ましい光景に目を細める。



「あ、あとで虎太に曲入れないとね」
「もう入ってる」
「僕が入れておきました。三つ子の悪魔シリーズは、必要なものを簡単に同期することが出来るんです」
「竜持のなかに入れておいた曲を同期したってことね」
「そういうことです。勉強にいい曲も入れておきましたよ」
「早速だけど聞こうかな。虎太、歌ってもらっていい?」



虎太はこくりと頷くと、口を開いて歌い始めた。静かなオーケストラの曲が流れてきて、そっと目を閉じる。綺麗な音だ。虎太の性能がいいんだろう。
それを見ていた凰壮が、何かを表示して見せてきた。私が行きたがっていた喫茶店のホームページだ。驚いた私を、竜持が楽しそうに見てくる。竜持の差し金か。



「最近忙しかったでしょう。自分へのご褒美に行ってきたらどうですか?いまなら予約のキャンセルがあるそうですよ」
「行きたい……!でもお金……!」
「お金なら僕が稼いだものがあるでしょう。これからの三人分の料金なども含まれていますから、結構な額になってますよ」
「あれは竜持と凰壮と虎太のぶん!自分へのご褒美っていうなら、虎太と凰壮がうちに来てくれたじゃない」
「んなの、竜持の我侭だろ。行きたくねえのかよ」
「凰壮……行きたい、けど」
「じゃあ行けばいいだろ。俺も行きたい」
「虎太」



歌っていた虎太がまっすぐ見つめてきて、なんだか不思議な気分で見つめ返す。竜持と同じ顔なのに、どうしてこんなに違うんだろう。
沈黙をごまかすように再び虎太が歌いだして、凰壮はもう予約をしようとしている。やっぱり兄弟だ。この強引な感じとか、すごく似てる。



「じゃあ、三人も何かしなきゃ!二人は買ったばかりで綺麗だし……あ、おいしい電気を食べるとか?」
「何だよおいしい電気って」
「名前さんは僕がこうしてほしいって言ったことを守ってくれているでしょう?充電の仕方とか、コンビニで売ってる充電器を使わないとか。それが一番ですよ」



そう言われたら口を噤むことしか出来ない。おいしい電気っていうのが私にもよくわからないけど、私ばっかり竜持に頼って楽したりしてたらいけないと思う。たまには竜持もおいしいもの食べないと。



「それより名前さん、レポートしなくていいんですか?もうすぐ寝る時間ですよ」
「え?わ、ほんとだ!虎太、そのまま音楽よろしく。凰壮、お店予約しといてね。竜持、充電は?」
「明日の朝すれば十分です」
「ん、じゃあ凰壮も目覚ましかけといて」



そのあとレポートを書き上げた私は、4人でベッドで寝ようと言ったけど却下された。僕たち機械なんですよ、と呆れたように竜持が言うのを流すのはいつものことだ。結局私が折れて三つ子の悪魔はソファで寝ることになったけど。寝顔はあどけなくて可愛くて、思わず写真を撮りたくなる。

その寝顔を見ているうちにソファにもたれて寝てしまって、翌朝竜持に怒られ凰壮に呆れられ虎太に無言でベッドを指さされてしまった。なんとなくこの先の生活が想像できて笑うと、すかさず竜持のお叱りがとんできた。でもこれはこれで嬉しいので、黙ってベッドに潜り込む。そして今日も私は、遅刻しそうになりながら道を走るのだった。
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