「いやー……なんだかどっと疲れたね」

 苦笑いをするオールマイトに、名前はぐったりとしたまま頷いた。
 結婚すると決めると、ふたりの行動は早かった。オールマイトは名前の家へ行き、結婚を考えていると頭を下げた。名前がいくら結婚できる年齢になっているといえ、まだ高校生だ。
 名前の両親は驚き、困惑した。いきなり娘と結婚したいと、あのオールマイトが言ってきたのだ。オールマイトは誤解のないように、ずっと友人として接してきたが、先日お互いの気持ちを確認したので結婚を申し込んだと説明した。少なくとも高校を卒業するまでは待つというオールマイトと、いますぐにでも結婚するという名前の意見の食い違いはあるものの、ふたりの結婚するという意思はかたい。
 長い長い話し合いのあと、両親はふたりの結婚を許した。名前が一度決めたことは譲らず、かけおちしてでも結婚するだろうと思ったことも理由のひとつだが、相手がオールマイトであることが大きかった。平和の象徴。ナンバーワンヒーロー。すべてに「元」がつくが、それでもオールマイトの偉大さは、骨身にしみてわかっていた。

 せめて受験を終えてから結婚を、という両親の妥協を名前は受け入れなかった。オールマイトがいる手前、できるだけ冷静に話し合ったが、名前は引かなかった。

「愛情を感じていないわけじゃない。お父さんもお母さんも、わたしを大事にしてくれてるってわかってる。だけど、この家にいてもひとりなの。ヤギさんといたい」

 これには両親も黙り込むしかなかった。お互い仕事が忙しく、急に出張がはいることも日常となってしまっているなかで、いつも笑顔で送り出してくれた娘の本音は胸に刺さった。

「せめて、高校を卒業するまでは、結婚前提の交際にしておきなさい。それと、お母さんとお父さんのところでオールマイトの結婚を独占スクープにさせてくれるなら結婚してもいいよ。もちろんインタビューも結婚式の放送も、すべて独占」

 母親なりの制止だった。
 名前はメディアへの露出を好まない。オールマイトも、ヒーローとしての活動を終えてからそういった機会も減った。
 嫌われてもいい。わざとそういうふうに言ったのだから、恨まれてもいい。反発して、結婚をやめるなり延期するなり宣言してくれれば、きっと頭も冷える。いつか結婚するにせよ、こんなに早く急ぐように結婚することはなくなるはずだ。

 名前はひるまなかった。オールマイトは、彼女の両親が新聞社に勤めていることをはじめて知り驚いたが、それでも引かなかった。ふたりは顔を見合わせただけで、お互いの気持ちが自分のことのように感じ取れた。

「わかりました。のみましょう」
「わたしも。お父さんお母さん、わたしたちはヤケになって結婚しようって言ってるわけじゃないんだよ。ヤギさんの体がもたないから、はやく結婚して、たくさん思い出を作りたいだけなんだよ」

 自分から出した条件をのまれては、もう頷くしかなかった。それに、少なくとも高校卒業までは結婚をしないという、こちらの最初の条件を取り付けられた。
 詳しい話はまた後日、と解散したあと、名前はオールマイトを駅まで送るという名目で家から抜け出した。オールマイトがため息をつく。

「まさか、きみのご両親が新聞記者だったとはね……驚いたよ」
「えっヤギさん知らなかったの?」
「知らないよ! だってきみ言わなかったじゃないか!」
「ヤギさんならもうわたしのこと調べてるかと思って。でも、へへ、そっか。本当にわたしのこと信用してくれてたんだね」

 出会った日のことを思いだして名前が笑う。滅多に見れないゆるんだ顔に、オールマイトにも笑みが浮かぶ。

「私たち今までなにもしてこなかったけど、どうだい、ここらでひとつ手をつないでみるっていうのは?」
「いい案だね」

 オールマイトと名前は、その日、はじめて肌がふれあった。
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