超高校級の暴走族がやけに可愛く見えて、思わず頭をなでてしまった。どうにも覆せない状況を思い出してはため息をつく。カツアゲとかされたらどうしよう。そんな事をしそうには見えなかったけど、時代遅れの立派すぎるリーゼントを思い出すたびに自信がなくなっていく。そもそも出会ったばっかりだし。話したのも二回目くらいだし。大和田くんのことよく知らないし。いつもならあんなこと絶対にしないのに、やっぱりまだ普段の自分じゃないみたいだ。
分厚い鉄板と釘で閉ざされた窓を見ながら、こんなときでも鳴るお腹を押さえた。なんと情けない……日光がないから何時かも時計を見なくちゃわからないのに、お腹は律儀に時間を知らせてくる。のろのろと歩きながら食堂へ向かう。とりあえずはごはんを食べないと。


「おや、名字名前殿も昼食ですかな?」
「山田くん」



食堂へ行く途中に会ったのは、大きなお腹をたぷんたぷんと揺らしながら歩いている山田くんだった。彼もこれから昼食だというので、自然と一緒に食堂に向かうことになる。リュックを背負い直しながら、山田くんは大きなため息をついて眼鏡を曇らせた。



「しかしこの食堂には野菜や肉はあれど、ジャンクフードやコーラ!コーラがないのは頂けない!」
「コーラ好きなの?」
「勿論です!」



ハァハァと荒い息を吐き出しながらコーラの魅力を語る姿は、まるでコーラ中毒者のようだ。しばらくコーラの魅力を散々に語ったあと、ますます飲みたくなったというようにがっくりした山田くんは、なで肩気味の肩をさらに落とした。



「そうだ、山田くんはモノモノマシーンって知ってる?」
「ああ、あれはマニア心をくすぐられますな!シークレット含めフルコンプさせようという消費者の心を巧みに弄ぶモノクマめ!もちプリのフィギュアは入っているんだろうな!」
「ああ、山田くんは山田くんでこの異常な状況にまいってるんだね」



情緒不安定らしい山田くんは、ジェットコースターのようにめまぐるしく怒りや悲しみを入れ替えて、最終的にまた落ち込んだ。ハマっているアニメが見られないことを嘆いているらしい。あとはインターネットがないのも。いつの間にか着いていた食堂に入りながら、落ち込む山田くんを慰めた。



「今さっきモノモノマシーンでオブラート当たったんだ。こんなものまで入ってるなら、コーラも入ってるんじゃない?」
「なるほど!」
「わ、眼鏡が輝いてる!」
「素晴らしい言葉をありがとうございます、名字名前殿!拙者、さっそく行ってくるでござる!」
「ああ、この異常な状況でキャラが崩壊してるんだね」



大きな体とは思えないほど機敏に回れ右をして、山田くんはあっという間に見えなくなってしまった。もしフィギュアやコーラが入っていなかったらと思うと申し訳ないけど、オブラートが入ってるくらいなんだから入ってるだろう、うん。希望を捨てちゃ駄目だ。

山田くんを見送って食堂のなかに目を向けると、意外にも中に人がいた。静かにティーカップをかたむけ紅茶を飲んでいるのはセレスさんだ。傍らにクッキーが置いてあるところを見ると、食後のティータイムというところだろう。



「セレスさんはご飯食べ終わったの?」
「いえ。わたくし、食事は作れませんの。このミルクティも、偶然ここに来た葉隠君に入れてもらいました」
「え、じゃあご飯はそれだけ?」
「ええ、ですから困り果てていたのです。ですが、さすがわたくしですわ。自分が相手でも、ギャンブルになると負けませんもの」



にっこりと笑いかけられて、曖昧に笑い返す。おそらく、セレスさんのぶんのご飯も作ってほしいということだろう。漂ってくる有無を言わさないオーラに、黙って天井を見上げる。私だっておいしいご飯は食べたいけど、春から一人暮らしの予定だけど、作れるものははっきり言って、ない。



「ねえモノクマ、レシピ本だして!」
「ちょっと、ボクは便利屋じゃないんだよ!いくら声が同じだからって四次元ポケットなんてないし、それにボクのほうが愛くるしいでしょ!」
「あ、出てきた」
「まあネズミが嫌いなのは共感できるけどね。ボクはネコじゃなくてクマだけど!」
「あのね、レシピ本が何冊かほしいの。ここにいるのってみんな高校生だし、料理なんて作れないでしょ?このままじゃ毒殺出来ないよ」
「料理に混ぜるわけだね。……仕方ないな!べ、別に毒殺なんか期待してないだからね!」



唐突なツンデレにツッコミを入れようか迷っている間にモノクマは数冊の本をどこからか持ってきて、床に投げ捨てた。ずいぶんと乱雑な置き方である。それを拾って顔を上げると、ちょうどモノクマが消えるところだった。「よい毒殺ライフを!」という謎の声と共に消えた物体はもう無視して、本に目を落とした。作れそうなものを探さなければ。



「ねえ、セレスさんって何が好き?」
「餃子ですわ」
「それはまた意外な……餃子はまだ難しいから、今日はオムライスなんてどう?」
「まあいいでしょう」
「ふわふわ卵は出来なさそうだけど」
「名字さん、一応言っておきますが、毒は入れないでくださいね」
「え?ああ、あれはモノクマに本を持ってこさせるためだから。冗談だよ」
「わかっていますわ。人の本質を見破らなければ、ギャンブルなんて出来ませんから」



にっこり笑うセレスさんは、優雅な仕草で紅茶に口をつけた。もう行けということだろうと、レシピを見ながら歩き始める。しかし、セレスさんに料理を出すとなると途端に難易度があがるのは、やはり相手がセレスさんだからだろうか。
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