窓から入るのは街と月の明かりのみ。むわっとした空気は、これ以上気温がさがらないことを予感させる。湿気をじっとりと孕んだような布団のうえで寝返りをうつと、肌から体温を吸い取ったブレスレットが鈍く光った。
馴染んだ布団がやけに広く感じる。髪が汗ばんだ首にまとわりついて、数日快適な部屋で寝ていたツケが押し寄せてきた。冷房のきいた部屋、いまの布団よりすこしだけ広いベッド、隣にいる体温の高いぬくもり。寝返りが満足にうてるという快適であるはずの事実が、やけに物足りなかった。



「竜持くん……」



いつも握っていた手はない。ぬくもりもない。久々に感じるこれがたぶん、寂しいという厄介な気持ちなんだろう。



・・・



抱きしめる体も包み込んでくれる手も、おやすみという優しい声もない。最初に名前さんと寝たときは、一度きりでいいと思った。この幸せを感じることはもう二度とないかもしれないけれど、この先どんなことがあってもあの夜を思い出すだけで、荒んだ心が丸くなるような気がした。
それなのに今はどうだ。合宿で自分がどれだけ幸福に浸かりきっていたか実感させられる。サッカーを思う存分楽しんで、夜は好きなひとと一緒に眠る。弟以上恋人未満の、満たされるような物足りないような不思議な関係。たった二日一緒に寝ただけで、こんな気持ちになるなんて思わなかった。



「名前さんはいまごろ寝ているんでしょうか……」



規則正しく上下する体。やわらかな頬に伸びたまつげ、薄く開いた唇からもれる吐息。ああもう、こんな切なくなる夜はやめてほしい。


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