「っていうかさあ、いい加減諦めなよ」
何に関して言ったのかさえ明確でない言葉をすぐさま感じ取り、ジャンは鋭い視線を私に向けてきた。
誰が見たってわかる恋に気付いていないのは、本人であるミカサと巨人にしか関心のないエレンぐらいなものだ。二人のそばにいるアルミンは、ジャンの気持ちに気付いているだろう。思慮深くわざわざ口に出したりはしないであろう彼の性格が、裏目に出ている気がする。だってジャンってば気付かれてないと思ってるんだもの。
「うるせえ。関係ないだろ」
「あるよ」
「はあ? ねえだろ」
エレンとジャンって、もしかして同族嫌悪なのかしら。鈍いジャンにこれみよがしにため息をついてみせると、細い目がさらにつり上がった。
休憩中でもこうして無駄話が出来るのは、訓練にも少しは慣れたおかげだろうか。それがいいか悪いかは別として。ジャンはミカサが話の中心だとわかったのか、噛み付かんばかりに反撃してくる。なんだか可愛い。
「どうして関係あんだよ! お前は黒髪でもないだろ」
「……髪フェチ?」
「違ぇよ!」
ミカサを見初めたきっかけは髪の毛だったというし、あながち間違いでもあるまい。じっとりとした視線を向けると、思い当たる節があったのか、ジャンはおとなしく口を噤んだ。
誰もこちらに意識を向けておらず、教官もいないのを確認して、ジャンににじり寄る。本人はそうっと見つめているらしい視線の先にいる人物から意識を剥がすように、ぴとりと広い背中に胸を当てた。途端にびくりと硬直する体は、動くという選択肢を放棄したようだ。
「ねえ、ジャン」
「ちっ、近ぇよ! 当たってるだろうが!」
「何が?」
わざとらしく耳に近い場所で囁けば、まだ発達するであろう体がまたびくりと震える。
ねえ、と腕を絡ませると、真っ赤になって徐々に前かがみになっていく。それが面白くて、耳に息を吹きかけた。
「うおっ!」
「ねえ、私だって関係あるんだよ。わかった?」
「わかった、わかったから!」
さすがにこれ以上いじめるのは可哀想だと、体から離れる。まだ前かがみになったままのジャンのことなどお構いなしに、休憩終了の鐘が鳴った。確か次は立体機動の訓練だ。肌にフィットするズボンのなかでジャンがどれほど己の欲望と格闘しているか、想像するだけで楽しい。
よろよろと立ち上がるジャンに、よろけたふりをしてまた触れる。硬直したジャンに、とびっきりの笑顔を向けてやった。
「私のことも、少しは意識してよね」