──運命の赤い糸って、信じる?
「えっ」
ぐいっと何かに引かれたように体が傾いて、慌てて足で踏ん張ったけど、さらに引かれる。左手の小指が縛られてるみたいにギリギリと痛んで、思わず足から力が抜けかけたところで、なにかに支えられた。
「大丈夫ショ?」
「え?」
入学式を終えたばかりの、見慣れない校舎。着られている制服。上履きは新品で、ふつうに歩くだけできゅっきゅっという音をやけに響かせた。
いまから一年をすごすクラスの前で、倒れかける女子を支える男子。その小指の赤い糸のさきは、私につながっている。
「……え?」
「ええと……なに?」
寄りかかったまま顔を凝視された男の子が、居心地が悪そうに頬をかく。とりあえずお礼と謝罪を述べてから離れて、おそるおそる自分の小指のさきを辿った。1mもないような糸は、間違いなく目の前の男の子につながっている。
男の子は「なんだこいつ」という気持ちを全面にだしてから、するりと教室のなかに入っていってしまった。これから一年同じクラスなのかと思うと、高校生になったばかりなのに、学校をやめたくなった。
入学式に続いて、先生の緊張したような慣れたような声を聞き流す。私の席よりひとつ左の列、ふたつ前。目立つ緑色の髪は、だるそうに先生とプリントのあいだを往復して、窓の外を見ている。私の赤い糸は、やっぱりあの男につながっている。
頭を抱えたくなった。実際には抱えている。こんなに早く出会うなんて、むしろ出会いたくなんかなかったのに。
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