何だかんだありつつ、あまりそれっぽくないが、私と西川は恋人になった。だが校則で男女交際は禁止されているらしいので、いちおうは秘密である。誰も先生に言わないでくれているだけなんだけど。許嫁だからいいんじゃね、というのが西川の持論だ。いざとなったら結婚するって言ってたけど、さすがに冗談だろう。
誰もが「ついにくっついたか」「まだ付き合ってなかったの?」「最初からわかってた」という発言をするのは無視である。さすがにそこまでわかりやすくはないと思う。……たぶん。

というわけで、私と西川はお風呂上がりのあとの少しの自由時間、ロビーでまったりくつろぐのが日課になっていた。誰かが入れ替わり立ち代り来ては話していって、なかなか楽しい時間だ。
ちびちびとジュースを飲みながら、横にいる西川をちろりと見上げた。お風呂上りだからか、前髪はいつもほど元気がない。



「西川、いまさらだけどさ」
「ん?」
「本当に私でよかったの?元借金持ちだし卑屈だし空気読めないし……3年もここにいたら、もっといい出会いがあったんじゃない?」
「それは名字にも言えることだろ」
「そうだけど」
「名字がいいんだべ」



おうふ。まさかの発言に顔が赤くなるのを抑えられない。お風呂上がりだからと誤魔化そうとしたけど、西川はそれもお見通しだったみたいだ。ふっと、からかうでもなく包み込むように笑われて、さらに顔が赤くなっていく。



「いいから黙って惚れられとけ。そういうとこも含めて好きなんだからよ」
「……はい」
「それと、そろそろ名前で呼べよ」
「え?」
「夏休みもうち来るんだろ?うちはみんな西川だ」
「確かに」



そう言われるとそうだ。西川と呼べば、そこにいる全員が振り返る。
名前で呼ぶのは恥ずかしいけど、すごく恥ずかしいけど、これも恋人っぽくなるためだ。名前はいいところで空気を読まないというシノの言葉を思い出して、ぐっと拳を握り締める。名前で呼べば、すこしは恋人っぽくなれるはず!



「はっ……はははは」
「笑ってるみたいだな」
「は、じめ」
「おう、名前」
「にっ、西川も名前で呼ぶの!?」
「一な。名前だけ名前で呼ぶのはおかしいだろ」
「そ……そういうもん?」
「そういうもん。ゲームなんて、はじめっから名前呼びだべ」
「確かに、恋人でもないのに名前呼んでるもんね。そっか、そういうものかあ」



一、と慣れるためにもう一度名前を呼ぶ。嬉しそうに返事をした恋人の顔がめったに見られない満面の笑みで、心臓がどくりと跳ねたあと一瞬仕事を放棄した。あっぶない、危うく死にかけるところだった……!



「どした?」
「ゲームのイベントでスチルゲットしたような感覚だった……!西川は笑うの禁止!」
「一な。まだまだフルコンプには遠いぞー。俺のスチルは全部で1000枚ある」
「多っ」
「なんせ一生ぶんだからな」
「あと999枚か。道のりは長いなー」
「俺も、まだ第二段階くらいしかクリアしてないしな。お互い頑張るか」
「一生分だもんね」
「おう」



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