三人の誘い方はそれぞれ違ったけど、気持ちは同じなのだろう。虎太はストレートに、凰壮は情報だけ与えて、竜持くんは遠回りにわかりにくく。どのお誘いにも笑顔で頷いて、指定された場所をしっかり覚えた。はずなのに。
日曜日、12時まであと30分。今日は昼までの練習だと言っていたから、あと30分で終わってしまう。



「み、緑の建物……!ってあれかな!?」



慣れない土地を、虎太が書いてくれた全く役に立たないメモを頼りに走る。寝坊してそのあとは道に迷い、こんな時間になってしまった。絶対怒ってる。行くのが怖いけど、行かないとあとが怖い。
必死に走って道を聞いて、ようやくたどり着いたのは11時43分だった。息をきらせて髪も顔もぐちゃぐちゃなまま、ようやくたどり着けたという安堵で酸素を必死に取り込む。

私に気付いた男の人が、訝しげにこちらを見てきた。あれがコーチだろう。息をなんとか整えながら、三つ子の姉のようなもので見学をしにきたと告げると、わずかな警戒心が霧散した。



「話は聞いている。ベンチに座って自由に見て行ってくれ」
「ありがと、う、ございます……」



お言葉に甘えてベンチに座って、ようやく落ち着きつつある呼吸をなだめた。心臓がちくちくと痛い。ずっと走りっぱなしだった足はがくがくで、翌日の筋肉痛を想像させた。
ハンカチで汗をぬぐって、小学生たちがボールを蹴る光景を眺めた。どれがキャプテンの翔くんだろう。確か声が大きくて……あ、あれがエリカちゃんかな。女の子で足が早い。3U……はどれかわからないけど、三つ子の悪魔ならすぐにわかった。ボールを蹴っている姿は、楽しそうでもあり真剣でもある。それを保護者のような姉のような気分で見ていると、コーチがホイッスルを吹いた。



「今日はここまで!」



コーチのもとへ集まったサッカー少年たちは、私に気付き不思議そうな顔をしたものの、すぐにコーチへと顔を向けた。邪魔にならないようにベンチから立ち上がって、距離を取る。
それにしても足ががくがくだ。震える足は、日頃の運動不足を訴えている。運動の必要性を感じつつも、面倒と受験勉強の文字がちらついて、無視することに決める。
ああでも、やっぱり自転車くらいは買っておくべきだった。引っ越すときにちょうど壊れてしまった自転車は捨ててしまったし、早めに新しいものを──。

今後の移動手段を考えている私の頭上に、影が落ちた。ちょうど三つぶん。……しまった、忘れてた。



「11時44分。2時間44分の遅刻ですねえ」
「女の支度には時間がかかるっつーけど、これはかかりすぎだろ。しかもひどい有様だし」
「約束やぶんな」
「ご、ごめんなさい」
「僕たち楽しみにしてたんですよ?虎太クンなんか練習の30分前に来てウォームアップしてたのに、全部無駄になりました」
「竜持もしてただろ。付き合わされた俺の身にもなれよ。なあ名前姉?」
「約束やぶんな」
「ごめんなさい」



冷や汗が次々と出てくるなか、三人の顔をまともに見ることも出来ずに謝る。怒る権利も責める特権も、彼らにはじゅうぶんにある。私は、それらを罰として受けなければならない。
正座している私を上から見下ろしてくる三人は、威圧感たっぷりだ。何度もか細い声でごめんなさいと謝る私に、ため息がみっつ降ってきた。



「どうせ寝坊でもしたんでしょう。そのうえ迷子になって遅くなった、というところですか?」
「う……ご明察」
「地図書いただろ」
「虎太の心遣いは嬉しかったんだけど──その、これを頼りにしたら、全然違う方向にいっちゃって」
「地図?見せてみろ」



凰壮に、握りしめてくしゃくしゃになってしまった地図を渡す。竜持くんも覗き込んで、ふたりしてぽかんと兄を見る。虎太にしてはじゅうぶんだったんだろうけど、他の人から見たらまったくわからない地図は、竜持くんの手を経由して戻ってきた。
曲がるときに目印となるはずの建物には「緑」としか書いていないし、そもそもスタート地点すら書かれていない。おばさんの家かと思ったけどまったく違うし、道は大通りしか記されていない。凰壮はさっきまでと違い、どこか申し訳ないような顔をして見てきた。この三つ子は、誰かがやらかしたことを自分の責任のように感じる節がある。



「よくここまで来れたな」
「道を聞きまくってなんとか……おかげで筋肉痛だよ」
「虎太クン、さすがにこれは地図じゃありませんよ」
「地図だろ」
「これが地図なら、いまごろ道に迷う人もいねえだろうな」



凰壮の嫌味に、虎太がムッと顔をしかめる。何とかしてこの空気を変えないと──そうだ、メンバーを紹介してもらおう!我ながらナイスアイディア!
と思ったのに、あっさり竜持くんに阻まれてしまった。どうやら私が遅れてきたことを一番さみしがっていたのは、この子らしい。もう一度心から謝ってから頭をなでると、子供扱いされたことに拗ねながらも機嫌をなおしてくれた。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -