「三人はいまから家に?」
「はい、今日は練習が休みなので」
「名前姉、家に来るだろ?今日誰もいねえし」
「おばさんもいないの?」
「合宿。久しぶりに姉ちゃんのご飯が食べたい」
「また卵焼き焦がすんじゃねえの?」
「いつの話よ、もう。凰壮ってば相変わらずね」



にやにやと笑いながら茶化してくる凰壮をわざとじっとり見上げると、楽しそうな笑い声が降ってきた。まったく、嬉しいならそう言えばいいのに。ひねくれているのは相変わらずのようだ。
今日はひとりきりのディナー予定だったし、ちょうどいいお誘いだ。凰壮がスーパーの袋を覗き込んで、買ってきたものをチェックする。



「唐揚げ食べてえ」
「いいですねえ。お豆腐がありますから、僕は豆腐とわかめのお味噌汁が飲みたいです」
「りんごも。でも姉ちゃん、皮むき……」
「いまは上手です!全部作ってあげるけど、さすがにおばさんとこの台所を借りるのは悪いから、うちで作るよ」
「駄目です。親には僕から連絡しておきますから」



いつになく強引な竜持くんに引っ張られ、初めての道をきょろきょろしながら歩く。そういえば竜持くんは意外と頑固で、自分の目的や信念に関しては譲らないんだった。弱いのは兄と弟と両親のみ。なんとも可愛い次男じゃないか。

虎太は表情には出さずうきうきと、凰壮は文句も言わず荷物を持ち、竜持くんはおばさんに連絡している。何だか懐かしくて変わらないようで、やっぱり変わっている三人と道を歩く。
しばらくしてついた家は前の家と同じくらい大きくて、スリッパも高そうだった。誰に言うでもなくおじゃましますと言って、虎太の後ろに続いてリビングに入る。やっぱり大きい。



「ご飯と豆腐とわかめの味噌汁と唐揚げと八宝菜、デザートにりんごでいい?」
「たくさん作ってくださいね。僕たち育ち盛りなんで」
「五人前くらい?」
「足んねえ。名前姉、俺たちのこといつまでも子供扱いしてんなよ」
「じゃあ大盤振る舞いで、竜持くんの好きなほうれん草のおひたしと凰壮の好きなコロッケ、虎太の好きなハンバーグも作るよ。時間かかるけど大丈夫?」
「そんなに作って、姉ちゃん疲れないのか?」
「うん!だって三人に会えて嬉しいもの!」



台所は好きに使っていいと言われたから、遠慮せず使ってしまおう。綺麗に後始末をして、後日改めてお詫びと挨拶をしにこよう、うんそうしよう!
腕まくりをして気合を入れて、買ってきた材料をすべて使い切る勢いでご飯を作り始める。お米を研いでお味噌汁を作って、どれも出来るだけ手早く、でも雑にならないように愛情をこめて。三人ともどれくらい食べるかわからないから多めに作って、余ったら持って帰ろう。



「よかったじゃねえか竜持」
「凰壮クンこそ嬉しそうですよ」
「俺も姉ちゃんに会えて嬉しい。けど、小さくなった」
「俺たちが大きくなったんだろ」
「名前さんは女っぽくなりましたね。悪い虫はついていないようですけど」
「竜持、よかったな」
「ふたりして何ですか」



出来るだけ早くと頑張ったけど作る量も数も多くて、結局出来上がったのは2時間後だった。慌てて大きなテーブルにたくさんのお皿と料理を並べて、湯気とおいしそうなにおいの前で手を合わせる。可愛らしい悪魔たちがいただきますという言葉を欠かさないのは、おばさんの躾の結果だろう。三つ子の言葉に甘えて私も一緒に食事をしながら、おいしいという言葉に頬をゆるませる。



「姉ちゃん上手になったな」
「虎太に言われると自信がつくよ」
「唐揚げもな。前は中が赤かったのに」
「凰壮がうるさいから、研究したの」
「味付けもちょうどいいです。久しぶりに食べると、またおいしいですね」
「ありがとう、竜持くんにそう言ってもらえると嬉しい」



虎太は子供らしさがすこし抜けて、男の子らしくなった。天然っぽいところは相変わらずだけど。凰壮は目つきが悪くなったかも。物事を斜に構える姿勢は変わらないけど、まだ小学生らしい可愛らしさを残している。竜持くんは、なんだか丸くなった。大人をすぐ攻撃対象として見ていたのがなくなったような、気がする。お味噌汁を飲むのも忘れてぼうっと竜持くんを見ていると、ふっと笑われた。



「そんなに見られると食べづらいですよ」
「あ、ごめん。何だか、三人とも成長したなと思って」
「名前さんこそ。──ところで名前さん、恋人などはいませんね?」
「ぶっ!い、いないけど……いきなりどうしたの?」
「いえ、少しばかり確認を。僕もまだまだですねえ」
「まだ小学生でしょう」



相変わらずマセている三人は、驚いている私などお構いなしにもりもりとご飯を食べている。
凰壮の言葉は正しかったようで、最初に考えていたご飯の量ではまったく足りていなかった。ああもう、こうなったら私も負けじと食べてやる。どうせ恋人がいたことなんてありませんよーだ!
我ながらうまく出来たコロッケを頬張ると、竜持くんが呆れたように見てきて、口のはしについた衣をとってくれた。その手は、男に近いものだった。


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