海にサッカー、花火にお祭りに綺麗な別荘。夏のいいものが一緒くたになったような空間で、翔くんに手招きされてゴンザレスくんへのプレゼントを覗き込んだ。可愛らしい絵が描かれたチケットに、みんなが名前を書き込んでいく。
……私が書いてもいいんだろうか。書いたら図々しいと思われそうだけど、書かないとゴンザレスくんのことが嫌いだとか祝ってないだとか、喜んでいるところに水を差してしまいそうだ。名前を書く順番がきてもまだ躊躇っていると、竜持くんが覗き込んできた。



「馬鹿なことを考えていないで、早く書いちゃってください」
「……馬鹿なことじゃないもの」
「言ったでしょう、名前さんは僕の勝利の女神だって。スペインまでついてきてもらいますからね」



赤くなりながら竜持くんを見つめると、赤い目の中にふっと淡い艶がよぎる。私と三つ子同士くらいにしかわからない僅かなはにかみに、一気に体温があがった。竜持くんもこう言ってくれていることだし、さっさと書いてしまおう、うん!
下のほうにひっそり私の名前が書かれたチケットは無事にゴンザレスくんの手に収まり、子供らしい笑顔を見せてくれた。わ、可愛い。



「名前さんってああいうのが好みなんですか?」
「可愛いとは思うけど……あ、花火」
「みんな外に出ていきますね。行きますか?」
「うん。お水もらってくるから先に行っててくれる?」



どうも竜持くんがそばにいると緊張してのどが渇いてしまう。誰もいなくなった部屋のなか、適当なボトルに入った飲み物をグラスに入れる。甘くていい香りがするそれを一気に飲み干して、もう一杯のどに流し込んだ。
なんだかくらくらする。竜持くんのそばにいて緊張したせいだ。海で虎太と凰壮と話した時はこんなふうにならなかったのに、竜持くんはずるい。何かわからないけどずるい。ふらつく足でテラスに出て、花火を追って離れたところへ行ってしまったみんなを追いかける。



「竜持くん!」
「どうしたんですか名前さん、目が据わってますよ」
「竜持くんがずるいからこうなってるの」
「名前さんのほうがずるいですよ」
「竜持くんだもん」



次々と打ち上げられる花火のせいで、すこし声を張り上げないと聞こえない。思い思いの場所に散らばっているみんなの声は、すこし離れているだけなのにまったく聞こえなかった。あ、杏子さんとコーチがまたラブラブしてる。



「もしかして……名前さん、なに飲んでるんですか?」
「ジュース。おいしいよ、竜持くんも飲む?」
「貸してください。──やっぱり。これ、お酒ですよ」
「そんなわけないじゃない。だっておいしいのよ?」
「理由になってません。これは没収です」
「竜持くんの意地悪!」



グラスがとられ、中に入っていたオレンジ色の液体がとろりと地面に染み込んでいく。もったいない……なんてことを。水分を与えられた地面をしばらく見て勢いよく竜持くんのほうを振り返ると、くらりと目眩がした。伸びてきた腕が支えてくれ、そのまますこし体重を預ける。



「酔っているのにいきなり動くからです」
「うー……すこし気持ち悪い」
「当たり前です。お酒を飲んだのは初めてでしょう?」
「ん……だって甘くておいしいから」
「理由になってません」
「意地悪!」



気持ち悪さがだんだんと消えていって、残るのは竜持くんに抱きしめられているという状況だけ。今はみんな花火に夢中だからいいけど、そのうち飽きてしまうだろう。何しろ子供たちの一番はサッカーなんだから。
よろめく足で地面に踏ん張り、竜持くんの腕をやんわりと押し返す。なんとなく、この状況を見られてはいけない気がした。



「竜持くんはお酒、飲まないの?」
「小学生になに言ってるんですか」
「あ、そうだった」
「僕も、せめて中学生だったらよかったんですけど。こればっかりは嘆いても仕方ありませんしね」
「私も、小学生がよかった。もう勉強なんて嫌だもの」
「成長したら、今までのテストも全部やり直しですよ」
「うっ……それは嫌かも」
「でしょう」



笑う竜持くんの横顔が花火に照らされて綺麗に輝いては、夜の暗闇に映える。すこし切れ長の目が花火を追って、そのまま私を視界に入れた。赤い目が花火よりも綺麗で、目が離せなくなる。ぬるい風がふいて竜持くんの髪を揺らして、あれだけ聞こえていた花火の音も聞こえないまま吸い込まれてしまいそうだ。



「あっ、私、ちょっとお水飲んでくる!酔ってるみたい」
「ようやく気づきましたか。ついていきますよ」
「ううん、一人で大丈夫。竜持くんは凰壮がどこか行かないように見張ってて」
「凰壮クンは野生動物ですか」
「ある意味そうかも」



笑ってごまかして、テラスのある方向へ歩き始める。エリカちゃんとゴンザレスくんはさっきこっちに来たから、もう行っても大丈夫だろう。さくさくと草を踏んで、花火とはまた違う人口の灯りを目指す。
テラスへのぼる階段へ足をかけたとき、竜持くんの声に引き止められた。花火の音なんかより鮮明に聞こえる、ひとりの男の声。



「名前さん!」
「なにー?」
「好きですよ!」
「私もー!」



にっこり笑って言われた言葉に、笑顔で返事をして手を振る。竜持くんも手を振り返してくれ、気をつけてくださいね、と言葉が続いた。それに大丈夫だと答えて階段をのぼって部屋に入って、ずるずると座り込む。お手伝いさんが慌てて駆け寄ってくるのに大丈夫だと手を振って伝え、膝を抱き寄せて顔を隠した。
竜持くんの馬鹿。意地悪。やっぱりずるいじゃない。


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