「名前ちゃん!ごめんね!それ私のせいでしょ!?」



どたばたと時間ぎりぎりに起きてきた杏子さんの第一声で、一気に注目を浴びた。続けて欠伸をしながらおりてきたコーチは、ぐらぐらと頭を揺らしながら集合と言った。
言葉を生産するのをやめた杏子さんに、続きはまた後でと言った。目の前の顔は申し訳ないという気持ちに満ちていて、にっこりと笑いかける。竜持くんと一緒に寝れたんだから、杏子さんには感謝したいくらいだ。



「朝飯前に練習するぞ。まずはランニングだ」
「私が自転車で先導するわ。名前ちゃんは、練習する場所にコーンを立てたりするのお願い出来る?」
「はい」



朝から元気に走る子供たちと杏子さん、早くも体力を半分ほど消費しているようなコーチを見送ってコートのある場所へと歩く。続きは帰ってきたらね、という杏子さんの真剣な顔を思い出して、ふっと笑う。そんな真剣になるほどのことではないのに、杏子さんのなかでは重要なことらしい。

青々とした芝生のうえに、教えられたとおりコーンを置いていく。タオルと飲み物をベンチを置いてみんなが帰ってくるのを待ながら、夏特有の青い空を見上げた。動くたびに服から竜持くんのにおいがして、なんだか昨日の夜みたいに抱きしめられているみたいだ。



「だ、駄目!これ以上考えちゃいけないのよ!」
「名前ちゃんどうしたの?」
「杏子さん!ランニング終わったんですか?」
「うん。すこし休憩してこっち使うみたい。それで名前ちゃん、昨日はごめんね!」
「いえ、気にしないでください」
「玲華ちゃんのお父様にもらったお酒がすごーくおいしくて、ついつい飲んじゃって……気付いたらベッドで寝てて朝だったの。その服、私たちが寝てたから部屋に入れなかったんでしょ?」
「まあ、その……驚いただけですから」
「本当にごめんね!」



ぱんっと勢いよく両手を合わせ、ごめんと繰り返す杏子さんに、慌てて頭をあげるように頼む。そもそも部屋を出ると言ったのは自分だし、気にしなくていい。むしろ二人が寝ているところを見てしまって、こちらこそ申し訳ない。
必死にそう言うと、杏子さんはぱちぱちと瞬きして笑った。彼女らしい、明るい笑顔。



「名前ちゃんが困っちゃうから、もう謝らないことにするわ。でも悪いと思ってるのは本当だし、マサルちゃんもあとで謝るって言ってたから」
「そんなことしないでいいです!関係ない私が合宿についてくるのを許してくれたんですし、こちらがお礼を言うならまだしもコーチが謝る必要なんてないです」
「そう?じゃあ、私がマサルちゃんのぶんも謝っておくわね。ごめんなさい!埋め合わせは必ずするわ」
「んー……じゃあ、いつまでもラブラブでいられる秘訣を教えてください」
「やっだー、名前ちゃんったら!」



ばしん、と背中を叩かれてつんのめる。頬を染めて照れつつそんなことはないと言う杏子さんは、少女のようだった。
やることのない女二人が恋の話に花を咲かせているあいだに、芝生のうえでは子供たちがサッカーボールと夢を蹴りはじめていた。ピッとホイッスルの音が鳴って、竜持くんの蹴ったボールがネットに吸い込まれていく。──ああ、青春なり。



・・・



「水着ですか?」
「そうよー、聞いてなかったの?」
「竜持くんからは何も……。言い忘れたのかな」
「そうだ、お詫びのチャーンス!」



午後からは海で遊ぶというのは、みんな知っている予定らしかった。全員水着を持ってきていて、ひとり取り残されたような気分になる。水着を着るのも恥ずかしいし、砂浜で遊んでいようかな。たしかパジャマ用に持ってきてまだ着ていない短パンがあるはずだ。



「名前ちゃん、どっちがいい?」
「え?……なんですかこれ」
「水着よ、み・ず・ぎ!」



ベッドの上に広げられているのは、白と赤のビキニだった。どっちがいい、ともう一度聞かれて、ようやく頭がまわりはじめる。頭を振っていらないというが、杏子さんの「昨日の夜の埋め合わせ」という単語に逆らいきれず、水着を見比べる。あまり抵抗して昨日の夜のことを誰かに言われたら、私が竜持くんの部屋にいたことがバレてしまう。



「杏子さんはどっちがいいんですか?」
「白いのはおニューなの!赤いほうは去年も着たけど、念のため持ってきてて」
「じゃあ、赤いのにします。本当に私が着ていいんですか?」
「もちろん!着たっていっても一回だけだし、洗濯してあるから」
「じゃあ、お借りします」
「どうぞ、遠慮なく!」



正直に言うと、スタイルのいい杏子さんと並ぶのは恥ずかしい。絶対に見比べられてしまう。しかし、ままよ!女は度胸、私のスタイルと顔の程度くらいみんな知っている!それに上にパーカー着るし!あとは野となれ山となれー!
初めて着るビキニを、きっちり上までしめたパーカーで隠す。足は見えてしまうけど、もう仕方ない。うきうきと水着を隠す素振りも見せない杏子さんと、水着で外へ走り出る。ビーチサンダルがじゃりじゃりとコンクリートを蹴った。


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