名前さんがいないと負けてしまうような気がするんです。僕たちの勝利のために、名前さんも合宿に参加させてくれますよね?
とは、自分たちがいないと勝ち残れないという自信のもとちらつかせた竜持くんの笑顔と言葉らしい。ひたすら謝る私に、コーチは苦笑しつつも顔を上げるように言ってくれた。自分もサポート役とはいえ恋人を連れて行くし、雑用などを頼むと思うがよろしく頼む。そう言ってくれたコーチは、確かに三つ子が信頼するだけある大人だった。謝罪ではなくお礼を言う私を見て、それにしても、とあたたかみのある声が低く響く。



「あの三つ子にそこまで好かれるなんて、ある意味才能だな」
「小さい頃から一緒にいましたから。あの子たち、可愛いんですよ」



ふっと目元がゆるんだコーチの表情からは、言葉にしなくても同意してくれているのが伝わってきた。なんていい人なんだろう。杏子さんがコーチを好きなのもわかる気がする。
もう一度お礼を言って、今度は玲華ちゃんにお礼を言いに行く。人数は多いほうが楽しいですよ、という鈴を転がしたような声は、まさしくお嬢様の風格だった。



・・・



それから寝る時間を惜しんで出来るだけ勉強をして、大きめのバッグ一つで玲華ちゃんの別荘にお邪魔した。お化粧品や基礎化粧品、日焼け止めなどはこちらで用意しているので、というお言葉に甘えての軽装。
お屋敷の大きさに驚いたり玲華ちゃんの痩せっぷりに驚いたりと、展開についていけない私を尻目に、子供たちはしなやかに事実を受け入れていった。玲華ちゃんの変身っぷりには、竜持くんもものすごく驚いていたけど。
驚いた興奮も冷めやらぬまま、部屋まで案内してもらうために高そうな階段をのぼって廊下を見回す。



「名前さんの部屋は杏子さんと一緒にさせてもらいました」
「じゅうぶんすぎるよ!ありがとう」



我侭でつれてきてもらったのに、玲華ちゃんの態度は変わらない。よろしくー、と明るく言ってくれる杏子さんに頭を下げて、さっそく荷物を部屋に置きに行った。二人で使うにはじゅうぶんな広さと大きなベッド、窓から見えるのは海。杏子さんは荷物を放り投げて窓を開け、嬉しそうに日差しの下へ腕を伸ばした。



「すごいわね!見て名前ちゃん、あれゴルフ場よ!」
「わあ!こりゃ、玲華ちゃんがサッカーするのに反対するわけですねえ」
「よねえ、普通はお琴とか茶道とかするものでしょうに」
「サッカー、好きなんですね」
「もちろん私たちもね」



ウインクとともに飛ばされた言葉に、笑って頷く。相変わらずルールは全部覚えられていないし、技の名前もわからない。それでもサッカーが好きだというだけで受け入れてくれる桃山プレデターは、最高のチームだった。


あとで泳ごうかしらという杏子さんと一緒に廊下へ出て、玲華ちゃんのダイエットの秘密を知るために外へと出る。眩しい日差しと暑さにうんざりしながらも、どこかわくわくする心が抑えきれない。合宿なんて初体験だ。



「名前さん、勉強は進みましたか?」
「出来るだけしてきたよ。ここでも出来たらするし……出来たらだけど」
「僕もすることがありますが、名前さんの質問くらい答えられるでしょう。何かあれば声をかけてくださいね」
「……竜持くん、小学生なのに」
「仕方ないでしょう、頭の出来が違うんですから。それに僕、好きなものはとことん追求しなきゃ気がすまないんです」



ねえ名前さん、と子供のくせに色気まで混じった流し目と、艶やかな声から目を逸らす。
体がどこか、おかしい。二年会わなかっただけなのに、空白なんてなかったようにすんなりと昔のように話せたのに、添い寝なんて小さいころ数え切れないほどしたのに。どうして、こんなに心臓が飛び跳ねようとするの。



「名前さん」
「なっ、なに?」
「アスレチックですって。聞いてました?」
「え?あ……すこしぼうっとしてたみたい」
「日射病にならないように注意してください。僕たちは行ってきますので、名前さんはゴールにいてくださいね」
「うん、頑張ってね!」
「ちゃんと出迎えてくださいよ」



張り切って走っていってしまった虎太とゴンザレスくんを追うように、竜持くんと凰壮も走っていく。西園寺家のお手伝いさんがタオルやドリンクを用意してくれているのを見て、冷やされたペットボトルを手にとってみる。きっとこれは、深く考えてはいけない問題だ。気付けば酷い結末を迎えることになる。
動いていないのに吹き出る汗をぬぐって、ペットボトルを首筋に当ててみる。私の心も、早く冷え切ってしまえばいいのに。


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