あれから何となく竜持くんに会いづらくて、模試の結果が悪かったことを理由に家と塾を往復するだけの日々を続けていた。落ち込んでいた三人があれからどうなっているかも気になっていたけど、竜持くんにどんな顔をして会えばいいのかがわからない。いつもどうやって接していたっけ?ぐるぐる回る思考は迷って同じところばかりを踏み固め、一向に先に進もうとはしない。

そんな日が長く続くかと思っていたが、思ったより短い日数で終わった。凰壮から連絡があったのだ。伝えたいことがあるから練習に来てほしいという頼みを断ることも出来ず、練習の終わり際にこっそりと顔を出した。



「名前姉!こっち」
「う、うん」



なんだか見知らぬ人がいる。知っている人とサッカーをしている人数が減り、代わりに知らない人が二人も増えている。しかも一人は金髪碧眼、あきらかに外国人かハーフだ。もう一人の背の高い子もほりが深いし、もしかして負けたから外国人を誘ったのか。
私の考えていることがわかったのか、凰壮は短く「違ぇよ」とだけ言った。もしかしたら私は考えていることが顔に出やすいのかもしれない。



「俺たち、八人制のサッカーでスペイン目指すことにしたんだ」
「スペイン!?」
「優勝したら行けるんだ。名前姉、今度こそ負けねえから」
「──うん」



いつの間に凰壮もこんな顔をするようになったんだろう。笑って優勝を信じていることを示すと、凰壮は満足そうに目を細めた。
新メンバーの二人はフォワードとゴールキーパーらしく、遠くから名前を教えてくれた。金髪のほうが青砥ゴンザレス琢馬、背の高いほうが多義。あきらかに少ない情報は凰壮の性格ゆえだろう。フルネームを覚えているあたり、ゴンザレスくんはサッカーがうまいらしい。それにしても……やっぱりハーフか。すごく可愛い。



「おや、これはこれは名前さんじゃないですか」
「りゅっ、竜持くん!」
「僕が凰壮クンに頼んで、名前さんに連絡してもらったんですよ」
「なんで?そんなの直接、──あ」
「僕だって緊張してるんです、それくらい察してください」
「は、はい」



なぜ私が怒られているようになっているんだろう。グラウンドでは練習を終えた子供たちがまだ足りないというように練習しているというのに、そこへ近付けもしない。虎太はゴンザレスくんと張り合って何かしているようだけど、それを見る余裕さえ削られていく。



「凰壮クンから聞いたと思いますが、今度は八人制の大会で優勝するんです」
「うん。本当に、よかった」
「今度、西園寺さんの別荘をお借りして合宿をするんです。名前さんも来てくださいね」
「えっ……なんで?」



行けるものなら行きたいが、はっきり言って私は部外者だ。たまに差し入れする程度の人間が合宿に行っていいなら、メンバーの親も行っていいレベルだろう。それに、行ってもたいしたことは出来ないと思う。行きたいけど。



「気付いたんです。名前さんが見に来てくれた試合は全部勝ってるって」
「そうだけど、それは竜持くんたちが頑張ったからだよ」
「たしかにシミュレーションでは名前さんの存在は排除されますが、モチベーションやげんかつぎの問題です。名前さんがいないと負ける、これはもうどうやっても拭うことの出来ない感覚でしょう。世間一般の言葉で言い表せば、名前さんは勝利の女神というやつです」
「女神!?」
「大事な節目がある際、名前さんがいないと負ける。僕たちはそんな恐怖に怯えているんです」



わざと大事なことだと聞こえないように肩をすくめてみせる竜持くんは、よく知っている強がっているときの姿だった。
……どうして避けたりなんてしてしまったんだろう。あれはお互いあのまま寝てしまったのが原因で、竜持くんは何も悪くないのに。避けていると気付いて、竜持くんはどれだけ傷ついただろう。傷つけたくないと思っていた大事なひとを、自分の身勝手で突き放してしまった。



「竜持くん、ごめんね。竜持くんが嫌いになったわけじゃないの。ただ、なんとなく恥ずかしくて……あと、模試の結果が悪くて」
「だから言ったでしょう、のんびりしていると知りませんって。数学ならわかる範囲で僕が教えてあげます。だから、来てください」
「もちろん。大事な竜持くんからの滅多にないお願いだもの。絶対に行くよ」



大事な大事な、弟のような三つ子たち。ごめんなさいと、もう避けないという意味を込めて竜持くんの手を握る。体温が高いのは、運動していたからか子供だからか。
あの日のように手を包み込んで笑ってみせた 。あなたは私の大事な人なんだよ。



「まったく、敵いませんよ。これだけで許してしまえるなんて、僕もずいぶん優しくなったものです」
「竜持くんは元から優しいよ。そうだ、合宿に行ってもいいならコーチにお礼を言わないと」
「構いませんよ、コーチも恋人をつれてくるんですから。名前さんが来ることをとやかく言う筋合いはありません」
「コーチだからあるんじゃ、」
「いいからほら、行きましょう。そろそろ虎太クンを止めないと」



私が見たときより白熱している虎太とゴンザレスくんの対決は、まわりが止めようとするほど燃え上がっていた。え、あれを私が止めるの?勿論です、頑張ってくださいね。
一秒ほどのアイコンタクトののち凰壮からも応援要請がきて、巻き込まれることは避けられないと一歩踏み出す。これが竜持くんたちの新しいチームメイトとのファーストコンタクトってどうなの。


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