「え、名前さん三つ子の違いわかるん!?」



こくり。元気のいい女の子の口から飛び出してきた関西弁の勢いに圧倒されながら頷く。圧勝に見えた試合の帰り、エリカちゃんは心底驚いたように目を見開いた。そんなに驚くようなことではないと思う。最初は私だって見分けがつかなかったけど、一緒にいるようになって段々とわかってきたのだ。だからエリカちゃんも6年も一緒にいればわかるんじゃないかな。



「いやあ、さすがに6年は……そうや、同じ髪になってもわかるん?おんなじ顔してるのに」
「よーく見たらね、違うんだよ」
「わかる、気がします」
「玲華ちゃんは早くもコツを掴んだのね」



まだささやかな苦しみや悩みしか知らない、無垢な花のような少女たち。三つ子を見ていると忘れがちだけど、本来小学生というのはこういった可愛らしさや明るさを持っている。
にこにこ笑いながらバスまでの道を歩いていると、とんとんと肩が叩かれた。後ろには、同じ髪型をしている三つ子たち。どうやら話を聞いていたらしい。子供らしい行動にくすくすと笑いながら、右から順番に顔だけを見て答えていく。



「凰壮、竜持くん、虎太」
「残念、はずれ。──って、言いたいとこだけどな」
「当たり」
「一発ですか、勘は鈍っていないようですね」
「さすがにわかるよ。凰壮はすこし目が細くて、虎太はまっすぐな目をしてる。竜持くんは……なんだか優しい目を、してる」



私を見る目が優しいのは、気のせいではないと思う。何だかんだ言いながらも世話をやいてくれて、たまにどちらが年上なのかわからなくなる。ドジをしたり失敗したりすると、呆れながらも最終的に優しい目で笑ってくれる。私を見る瞳のなかに、一瞬だけふっと何かが灯るのだ。それが何かはわからないけど、きっとすごくあたたかいもの。
三人の見分け方を私なりに説明していると、凰壮が髪を戻しながら頬をつねってきた。痛くしないあたりが凰壮の優しさだ。



「そこまで。ノロケ聞かされる俺らの身にもなれよ」
「だって三人とも可愛いんだもの。私は近所に住んでた姉のような存在だけど、三人が誇らしいよ」
「違う」
「虎太?何が違うの?あっ、私が姉なのが嫌なの!?」
「違う」



それっきり虎太は口をつぐんで何も言わなくなってしまった。凰壮も呆れたように手を離し、すたすたと歩いていく。どうしたものかと竜持くんを見ると、そっぽを向いていた。



「竜持くん?どうしたの?」
「いえ、こちらの事情ですので。しばらくそっとしておいてくれますか?」
「──もしかして私が姉って言うの、嫌だった?」
「違います。──ああ、少しそれもあるかもしれません。ですが、名前さんが近所に住んでいて、本当によかったと思っていますよ」



それっきり足早に去っていってしまった竜持くんに首をかしげて、となりを歩いている虎太を見る。虎太が怒っても焦っても悲しんでもいないということは、この件はたいしたことはなかったのだろう。私にとってはわだかまりの残る終わりだけど、終わったものには区切りをつけて見向きもしない三人が相手なのだ。これ以上聞いても何も答えてはくれないだろう。



「ねえ虎太、竜持くんおかしくなかった?」
「ほら」
「ん?」
「姉ちゃんは竜持が大事なんだ。だからいつも一番に竜持を心配する」
「そう?三人とも心配だよ」
「竜持、嬉しがってた。姉ちゃんが俺らの姉ちゃんになってくれて嬉しい」
「虎太……!」



なんていい子なんだろうと、思わず虎太を抱きしめる。しかし、相手は私より背が高くて体を鍛えているスポーツマンだ。抱きしめるより抱きつくような形になってしまって、以前とは違うことに驚く。
そっか、もう男の子なんだ。そうか、もう青年になりかけているんだ。抱きついたまま頭をなでて、今日の試合をすごいと褒めちぎる。虎太は嬉しそうに目を細めて、私の腕をとった。



「行こう。竜持が怒る」
「それは怖いね」
「ホットケーキ、楽しみにしてる」
「生クリームと、好きなフルーツもつけるよ。何がいい?」
「いちごとメロンとマンゴー」
「了解」



思わずこぼれた笑いに、虎太が拗ねた顔で対応する。果物まで色を揃えなくていいのに、何かこだわりがあるみたいだ。それぞれに同じ色の果物を……いや、どうせだから全部乗せてカラフルにしてしまおう。想像するだけでおいしそうなホットケーキは、ふわふわと浮かんで三人の笑顔へと変わる。



「今日はお祝いだね!」
「姉ちゃん、喜んでくれるのか」
「当たり前でしょう!虎太ってばすごかったよ、すいすいって敵をかわしてたもの!」
「……でも俺、わがまま言った」
「そっか。でも虎太なら、このあとどうすればいいかわかってるんでしょう?」



こちらを見た虎太の顔は、ひとりのサッカー選手の顔をしていた。うん、と頷く頭を思いきりなでて、青空を見上げた。あとで凰壮と竜持くんも、思いきり褒めないとね!


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