X.教皇/カナタマ
 
 
日々生まれてくるニンゲンたちが皆、平等だなんてただの美徳でしかない。神はいる。しかし神はニンゲンを悪戯に扱っているのではないだろうか。
だって、そうとしか思えない。どうして俺は生まれてきたのか。
神は狡い、非道い、卑怯だ。
平穏で幸せに暮らす者もいれば、常に死と隣り合わせで過酷に生きる者もいる。神を恨むべきか、この世界を恨むべきか。
分かっている。これは俺の当て擦りだってことくらい。本当は誰も悪くないんだ。これが、運命なのだから俺はそれを辿って生けばいいだけの話。例えそれがどんなに辛苦なことでさえも、すべて事実なのだから受け止めるしかないのだ。
 
『───…カナエ』
「…」
 
ああ、神よ。どれほど俺に試練を与えれば気が済むのですか。本当に、意地が悪い。
頭の中で何度も響く俺の名前を呼ぶ彼の声。何度も何度も、繰り返し繰り返し。
俺は、恋してしまった。彼を、愛してしまった。
何度も打ち消そうとしたけれどそれは不可能で。ただの一時的な気の迷いだと思ったのに、思い込もうとしたのに、それは日々を重ねる度にどんどん膨らんでいって。最終的には毎日のように彼の姿を探している自分がいることに気付く。
 
『カナエはヘタレだけど、ほんと銃の腕前はすごいよな!』
 
彼の顔を見ると、彼の声を聞くと、彼に名前を呼ばれると、俺の理性は脆く儚く崩れ去っていくような気がする。もう止まらない。止められない。もう、手遅れなんだ。
彼が、たまらなく愛おしい。狂おしいほどに。
この手で彼を抱いたときに、分かったこと。他の誰にも感じたことのない感情。他の誰よりも彼が欲しいと心から思った。そしてずっとこの時間が続けばいいと切に願った。
 
『やッ、ア…カ、ナエ、ぇっ…!』
 
色っぽい甘い吐息、艶めかしい声、うっとりするほどしっとりとした吸い付くような白い肌、零す涙はまるで真珠。俺とは違って穢れがなく純粋で、すべてがキレイだった。君とは正反対のこんな俺が触れてもいいのかとさえ思うほど。
けれども躊躇いがちに、俺の首にそっと回された腕がたまらなく愛しくて、放したくないと思った。繋がったまま心も体も一瞬に解け合えばいいのに、と。俺の本能が彼を求めているのだ。
 
「カナエ、眉間に皺寄せてどうしたんだ?」
「うそっ、皺寄ってたかな?」
「ああ、変な顔だった」
「え、タマキ君ひどい!」
「ははっ、うそうそ」
 
 
 
(ああ、神様どうか穢れなき彼に慈悲を)
(そして、できることならばこの縛めを解き放ってください)
 
 
X.教皇
(慈悲と束縛)
 
 
(期間限定DCWebアンソロジー企画DCTAROT様に投稿させていただいた作品でした)
(正位置がタマキで、逆位置がカナエみたいな)
 

 
 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -