鬼鮫はあたしがら触れようとすると、凄く申し訳なさそうに拒絶する。

「鮫の肌ですよ、私のそれは」

貴女を傷つけたくないんです。誰よりも愛しくて誰よりも大切な貴女を傷つけたくないんです。だから、ダメですよ、と笑う。
それを無視してぎゅうと鬼鮫に抱きつくと、仕方ない方ですね。といって鬼鮫はあたしを抱き上げる。コートを脱いで、月明かりしかない私たちの小さな部屋で、鬼鮫の首に顔を埋めて。ほのかな血の香りにきゅうと心がきつくなった。
鮫は血の匂いに敏感だというから、きっと今日できたあたしのお腹の傷にも気がついてるはず。事実、そこを撫でて、鬼鮫は悲しそうにペロリとあたしの耳を舐めた。

「傷つけたく、ないんですよ」

ゆっくりあたしのいいところを撫で回しながら鬼鮫は何度も繰り返す。鬼鮫の過去をあたしは知らない。知ろうともしない。多分、聞いたところであたしの鬼鮫に対する態度は変わらないし、彼が話したくないのならそれでもいい。
でも、彼は愛されることに怯えている、と思う。愛してるって言えるくせに、私が愛してると言うとひどく怖がる。
鬼鮫があたしを愛してくれるから、あたしも彼を愛したいのに。


「見てほら、傷ついてないでしょ」
「本当でしょうか?」
「本当よ、ほら、」

あたしが服を脱ぎ始めると、鬼鮫が慌てて止める。皆まで言うなといわん表情で見つめられて涙が出そうになった。

「わかりましたよ」
「鬼鮫、大丈夫だから」
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫」

初めてゆっくり重なる唇は、想像したよりとっても甘くてあたしをなかせるのには十分だった。

「あなたがいけないんです」

そう言うと鬼鮫は私をベットに押し倒した。月明かりが照らす鬼鮫の青い肌が獲物を捕らえたようにざわついた。

「もう後悔しても遅いですよ」

鬼鮫が重なる。ぎゅうと抱きつかれてキスを重ねていく。いつの間にか肌けたあたしの素肌に走る傷つけられた腹部に鬼鮫のゴツゴツした指が伝う。

「…どうもダメですねぇ」
「うん…?」
「この傷を見るとどうしても貴女を傷つけた人間を殺したくなりますよぉ」

くくっと笑う鬼鮫に私も苦笑いを返す。そう言うと思って写真を手渡せば、用意周到ですねぇなんて言う鬼鮫。

「本当…困った人です」
「え?」
「あなたはこんなにも私を惑わせる。どうかしたくなる」

愛とはこういうものですか。鬼鮫が嬉しそうにつぶやいた。


2014/12/18



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