人傀儡になってからまともに食事を摂らなくても生きていけるようになった。生身の部分を限りなく減らし、少しでも長く美しく生きるのが俺の芸術だ。その結果そうなったのだから、無駄に食事を取るなんて面倒なことはしたくなかった。だが、なまえが来てからは話が別だ。

「鬼鮫さん、今日の夜ごはんは私が作るよー」
「おやおやすみませんねぇ…よろしくお願いしますよ」
「任せてください!…はいじゃあ何かリクエストある人ー」

いつものやりとり、いつもの呼びかけ。今この居間にいるのは俺とデイダラ、飛段、角都、鬼鮫の五人だ。我先にと手を挙げるのは決まってデイダラと飛段の二大バカ。

「はい!オイラハンバーグがいい!うん!」
「お前相変わらずガキだなァ。なまえー今日はレアステーキにしよーぜぇ」
「テメェ飛段、俺のが先輩だぞ、うん!!」

言い争いを始めた二人を面倒くさそうに見やり、なまえは角都は?と一応聞く。角都は煮物、といういかにもジジ臭くざっくりとしたリクエストを出した。鬼鮫は鬼鮫でサラダの下ごしらえをしている。女かお前。

「サソリはー…ご飯、食べない?」

いつもいらねぇと一蹴していたし、なまえが来てからも食べる日食べない日があった。なまえも一応平等を尊重して俺にもリクエストを聞くが俺はいつも何でもいい、としか答えなかった。
何でもいいのは本当だ。俺が食べたいのは変態鮫の飯じゃなくて、こいつの飯なんだ。

「……じゃあ、カレー」

自分の口から出た言葉に自分でも信じられなかった。言い争いをしていたバカ二人と、角都まで驚いたようにこちらを向いた。でも俺はどちらかといえば、なまえの反応の方に驚いていた。

「やった!サソリがリクエストしてくれた!!私、頑張るね!」
「えーーっなまえ!ハンバーグ!ハンバーグー!!」
「わかったようデイダラ!小さいのでいいなら作るから!」
「テメェずりぃぞ!このバカ!!」

バカがバカに馬鹿と言っている様はなんとも滑稽なのだろう。その様子に角都も鬼鮫も小さく失笑していた。と、思えば角都の笑みはそこじゃなく、俺に向けられたものだったらしい。

「珍しいこともあるものだな」
「うるせぇ。気まぐれだ」

そうか、とだけ答えたジジイはまたビンゴブックに視線を落とした。なまえの方を向けばいつも以上に嬉しそうに料理をするなまえがいた。
後から居間に入ってきたイタチには何もリクエストを聞かず、聞いて聞いてと俺から出た言葉を伝えている。…予想以上の舞い上がりっぷりに少し見ていられなくなる。なまえから話を聞き終わったイタチが茶を片手に俺の隣に座る。

「普段からそう素直になればいいんじゃないですか、サソリさん」
「なんのことだ」
「お前が一番わかってるだろう」

ビンゴブックから視線を移さないまま角都が口を挟む。睨みつけても効果がないし、と何気なくまたなまえを目で追う。デイダラと飛段に囲まれて料理をするなまえの姿に感情が湧き上がる。

「…なんのことだか」

それだけいってイタチが淹れた茶を啜る。振り向いたなまえのリクエストありがとう!サソリ大好き!に唯一生身の心臓が跳ねたことは内緒にしておく。



(ね、美味しい美味しい?)
(さぁな)
(素直になりなよーサソリー)
(うるせぇ!)


2015/01/13



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