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※いつもながらギン千代様好きは注意
(宗茂さんの改名歴無視してます、すみません)




それはまるで、夏の日差しが肌を指す時の痛みのようだ。宗茂様の笑顔と、ギン千代様の照れ笑いとを交互に見やればそのぴりっとした痛みはもう一度私の心臓を責めていく。

「宗茂様ー!」
「ご成婚おめでとうございますー!!」

ご成婚の知らせを民に流すための今日の催事。民衆に笑顔で答え、ひとりひとりの家を回る彼は、まさに聖人君主、その人だった。

「宗茂様、ギン千代様!早く可愛いらしい御子様を見せてくだせぇだ」
「な、なっ!?何をっ」
「そう言われたら、仕方ないな。期待しててくれ」
「宗茂!!」

そんな馴れ合いにも民は目を細め、この二人の成婚を心の底から祝っていた。
宗茂様の笑顔が重なる度に、私はまた胸を痛める。歩き巫女の仮面を紹運様に与えられ、宗茂様を影からお守りしてきた私にも感慨深いというかなんというか。あぁ、この人のことが好きだなぁと、しみじみ思ってしまった。

「さて、そろそろ疲れただろうギン千代。部屋まで送るから、今日は帰ろう」
「よ、よい!一人で帰れる!」
「…そうか。では、俺は散歩をしてから帰るから、先に部屋で待っててくれ」

その言葉が何を意味するのかは、初心なギン千代様とて分かったのか、真っ赤になり馬鹿者!と叫び、踵を返し歩き出した。照れてるんだよ、と民に微笑むその姿を木の上から眺めていたが、私も先に城へ戻ろうと、その場を離れた。

「あ、おかえりー」

女中であり親友でもある華が、また夜ご飯をつまみ食いしている。お零れに預かろうと手を出せば仕方ないなーと彼女は小さなお結びをくれた。

「また旅に行くんでしょ?いつからだっけ」
「さぁねー。まだいつかは分からなくて。宗茂様とギン千代様の新しいお屋敷を見にね」
「あー、遂に立花の家になるのねえ。ギン千代様もずっと高橋に居てご不満溜まってるでしょうし…ってか、割と元気で安心したわぁ」
「…まぁ、ね」

彼女は私の心をよく知っているし、逆に彼女とあと一人しか私がどんな気持ちを抱えているか知りえない。ぽんっと私の頭を撫でた華は、元気づけるように笑った。

「明日の祝祭の席、お手伝いお願いしよっかな」

じっと物陰から見守る方の気持ちを汲んでくれたのか、華がそう提案してくれた。今はこの優しさに甘えたいと、そう思ってしまった。





「おめでとうございますだー!」
「おめでとう宗茂様〜」

昨日の式典で挨拶が出来なかった民が門の外から大きな声で呼びかける。今日は位の高い方のみをお招きしての式典だから、お二人も腰を据えて舞や挨拶を楽しんでいた。
私はと言うと、華に借りた女中服に身を包み、右へ左へと大忙しだった。

「お、姉ちゃん可愛いじゃん!こっちでおじさん達の御酌してくれよ〜」
「はい、ただいま!」

そんな変態親父たちの手を振り払えないのがこの仕事。華も大変だなぁと彼女を見てれば、私もあちらこちらから呼ばれ、御酌周りをした。

「あの女中は…」

ふと、宗茂様の横を通る時、彼に鋭い視線で射抜かれたような気がした。気づかれないように慌てて背中を向けたが、もう遅かったようで。

「何をしてる」

肩を捕まれ振り返る。どんな顔をしてるかなんて想像はしなかったけど、彼はいたく傷ついた表情を見せた。あ、と声を私に、宗茂様は悲しそうに首を振った。

「お前にこんなことをさせるつもりは無かったのに」
「…申し訳ございません。人手が足りなくて」
「それが他の男に触らせる理由になるとでも?」

まだ言葉を続けようとする宗茂様、そこにギン千代様から声が掛かる。お客様が少し酔っ払った様子で宗茂様を手招きしていた。私も他のお客様に呼ばれ、宗茂様に背を向けた。

「!まだ、」

宗茂様の言葉を聞こえないふりして歩き出す。もう、振り返る勇気は、心の強さはなかった。

宴もたけなわ、そろそろ…と宗茂様が腰を上げ、挨拶をした。お客様ひとりひとりを見送り、昨日と同じように一足先にギン千代様をお部屋に返した宗茂様が、静かになった宴会場を見渡した。

「おい、いるんだろう?」

その呼び掛けが私に向けられたものだと察して、慌てて宗茂様の前に膝をついた。怒られるのは分かっていたから、腹を括って宗茂様に返事する。

「ここに」
「なぁ、少し付き合ってくれないか」

ぽんっと私の頭に手を置いた宗茂様が、優しく微笑んだ。予想外の反応に驚き、そっと頭を上げた私の顔を両手で包み、この宴会で見せなかった心からの笑顔を零した。

「かしこまりました。私で良ければどこまでも」
「そうか。では、船に乗ろう」
「今からですか?もう日が傾いてますよ」
「だからさ。じゃあ、行こうか」

いつの間にか私の手を取る宗茂様に連れられ、柳川の方へ歩き出す。揺れる栗色の髪がとても綺麗で見とれていれば、急にくるりと振り返り微笑む。上品な表情にまた、心を奪われた。

「わ、」

言葉を飲み込むくらいのその景色は、圧巻の一言に尽きた。落ち始めた日を背に、夏の柳川が美しく反射し輝いていた。こんな綺麗な景色を見たのはいつぶりだろう。そんな私を嬉しそうに見ていた宗茂様が、用意されていた船に乗り、早く来いと声をかける。
二人きりで過ごすのなんてあまりないからかどうしても慣れずに私は彼を直視出来なかった。

「なぁ、どうしてだ?」
「えっ」

宗茂様がそっと触れたそこは、昼間の宴会でお客様に触られた所。でも彼の手は不思議で、触られるだけで心臓が跳ねる。

「どうしてだ。俺はこんなに、お前が愛おしいのに」
「宗茂様、お戯れが過ぎます」
「好きだ、」
「宗茂様!」

その先をにはきっと。期待してしまう私をひたすら責める。それを発することは、宗茂様には許されてない。ご成婚したばかりの宗茂様には許されてないことだ。

「やめてください」
「どうして」
「あなたは酷いお人です」

ついぞ流れた私の涙を宗茂様の人差し指が捉える。太陽と共に落ち始めた気持ちを引き上げるように宗茂様があやす。心音は早鐘をうち、それと反比例するように宗茂様が背中を優しく叩いてくれる。自然と抱き寄せられる体制になり、慌てて両手で押し返す。
多分、今の私は日の本で一番可愛くない。涙でぐちゃぐちゃになった顔を向けないように下を向いた。

「お願いですから、ギン千代様を幸せにしてください」
「だが…」
「ギン千代様の幸せがあなた様の幸せでしょう。使える君主の幸せこそ、我ら家臣の喜びに他なりません」

「ではどうして泣く?」

押し返した手を強く引き寄せられる。川をゆるゆる下っていた船が大きく揺れ、私と宗茂様の顔が至近距離に縮まった。

「……それは」
「ギン千代の幸せももちろんだが、これまで献身的に使えてきた家臣の幸せもまた大事なものだ、だからお前には世界で一番幸せになって欲しい」
「そんな」
「一生俺の傍に居れば。俺がずっと、お前だけを愛せれば、愛しい顔で答えてくれるのか?」

顎を捕まれそのまま唇が重なる。柔らかく、懐かしい感触にまた涙が溢れた。

「お慕いしてます…宗茂様…」
「あぁ、俺もだ。誰よりも」

上辺だけの言葉を言える人でもある。心の底から信じるのは怖いけれども、この優しい手つきを今は信じたい。

「宗茂様、」

啄むように接吻を重ね、宗茂様の思いを受け止めていく。何度も好きだ、愛してる、なんて言われたら私はまたこの人をから離れなれなくなる。日が落ちて小さな蝋燭と蛍に囲まれる柳川で、宗茂様が困ったように微笑んでいる。

「お前は一生、俺のそばに居れば良い。誰よりも幸せにしてやろう」

あぁ、本当に酷いお人。そうして私を間違えた道へ誘うのですね。何度も繰り返されるそれは、触れる度に罪を一つ重ねていくようで。それでもまた、私はあなた様に惹かれていくのでしょう。


あなたは私の名前すら、知らないのに。



2017/05/21
拍手ありがとうございました!



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