迷子の子供達 | ナノ


迷子の子供達


強引に壁へと縫い付けられ、遊馬は反射的に声を上げようとした。
「やめッ……!んぐっ」
直後、荒々しく口を塞がれる。凌牙が舌を捻じ込んできたものだから、首を振って逃げようとした。しかし先を読まれて顎を捕らえられる。強い力で上向かされ、唇での結合がより深いものになった。
「んーッ!んんーっ」
抗議の叫びなんて音にもならない。全て凌牙の口の中に吸い込まれ、舌を絡め取られてしまえば、声を発することさえ出来なくなった。
「ん、ふっ……!」
長い時間をかけて遊馬の口腔を荒らしまわった唇が、ようやく離れていった。絡んだ唾液がねっとりと糸を引いており、カッと羞恥が込み上げる。肩で荒い息を吐きながら、すぐ目の前にいる男を見上げた。
「シャー、ク……手、どけろよ……」
「断る」
熱い吐息とは裏腹に、冷たい声音で切り捨てられた。右手で遊馬の両手首を縫い付けたまま、左手がブラウスの中に侵入してきて、遊馬は身体を跳ねさせた。
「シャーク!もう休み時間終わる!」
「知るかよ。俺は次サボるつもりだったんだ」
「俺は授業に出るつもりだったんだよ!なあ、放して……!」
「うるせえ」
ブラジャーの上から慎ましい胸の膨らみを鷲掴みにされた。強い力に息を詰めたところを、再び唇で塞がれる。固く歯を食いしばって拒絶していたが、胸を揉まれているせいで、つい甘い吐息を零してしまう。その隙をついて熱い舌が侵入してきた。ざらりと粘膜を擦りつけられ、ぞくぞくしたものが背筋を走る。
キーンコーンカーンコーン……
授業の開始を知らせるチャイムが鳴ったのを、溶かされそうな思考の中で聞いた。
「……これで言い訳の材料はなくなったな」
喉で笑う男を、遊馬は揺れる瞳で見上げた。口元は笑っているが、凌牙の目は笑っていない。手中にある獲物をどう吟味しようか考えている獰猛な光があった。
「こ、ここを……どこだと思ってんだよ……」
「学校だな。空き教室の中だ」
「だったら……!」
「なに躊躇ってんだよ。今更だろ」
遊馬の耳に口を寄せる。
「何度お前を抱いたか忘れたのか?いつもみてえに、善がって啼けばいいんだよ」
胸を弄くっていた手が離れ、短いスカートの中に侵入する。柔らかな内股を撫でられて、遊馬はぎゅっと眼を瞑った。
凌牙とこんなことになったのは、不登校になった彼を説得しようと追い掛け回していた頃だ。社会の底辺に身を落とし、鬱憤を溜め込んでいた凌牙は、しつこく言い寄る遊馬に怒りの矛先を向けた。怯えて泣き叫ぶ遊馬を強引に暴き、征服した凌牙は、以降も度々遊馬の身体を求めるようになった。場所や時間など関係ない。路地裏だろうが、学校だろうが、凌牙の気分ひとつで行為は始められる。
遊馬だって黙ってこの暴挙を受け入れていたわけではなかった。最初はそれこそ死に物狂いで抵抗した。凌牙を大切な仲間だと思っていたから、こんなことをさせてはいけないと必死になった。
だが、強引に身体を開かされる苦痛に涙を流しながら、ふと遊馬はこれが凌牙の心の叫びではないのかと感じた。日頃の鬱憤や苛立ちは、家族や友達との対話の中で自然とガス抜きされるものだが、凌牙にはその相手がいないのだ。唯一いるとすれば遊馬だ。
一方的に行為を押し進める凌牙の手から寂しさを感じ取ってしまった遊馬は、強く拒むことができなくなった。こうすることで少しでも凌牙の慰めになるのなら、と抵抗するのをやめた。拒否の姿勢を見せなくなったことに凌牙は気付いたようだったが、何も言わずに幼い少女の肢体へ身を埋めた。暴行を受け、屈服しているのは遊馬のはずなのに、まるで傷つき震える野生の獣を抱きとめているような錯覚に陥った。

「ぁふ、んっ、く、ぅンん……!」
濡れた女陰を指で掻き混ぜられ、遊馬は漏れそうになる声を必死に押し殺した。
ここは空き教室で、周りは授業中とはいえ、人に聞かれないという保証はない。両手を纏められたままなので、奥歯が軋むほど強く噛んでやり過ごそうとした。
しかしそれを凌牙は許してくれない。
「んあっ!やっ、そこは!」
根本まで押し入れた中指を曲げられると、どうしても喘ぎ声が出てしまう。お腹側にあるざらざらとした部分は遊馬の性感帯のひとつだ。指の腹で撫でられるだけで腰が疼いてたまらない。
「声殺すなよ。つまんねえだろ」
「ぁああアッ!!ダメ、ダメぇ!!」
ぐっ、とその部分を内外から挟むように、中指と親指を押し付けられた。しかも親指は割れ目から頭を覗かせた秘豆を刺激しており、感じる2点を同時に責められた遊馬は、一気に高みへと押し上げられた。
「はっ、はあっ……」
軽く絶頂に達した身体から力が抜ける。凌牙が頭上で手を拘束しているから、なんとか立っているような状態だ。背中は完全に後ろの壁に預けられており、脚も笑って力が入らない。股を閉じさせないために挟んでいる凌牙の膝の上に乗り上げるような形になっていた。
「いい顔だな。ぞくぞくするぜ」
唇を舐めた凌牙が、遊馬から手を離す。ずるずると壁伝いに崩れ落ちた。下着などとうに脱がされた秘部はびしょびしょだ。愛液が脚を伝って垂れている。スカートが汚れてしまいそうで座り込むことができず、膝立ちの状態で凌牙に肌蹴られたブラウスの前を閉じた。
「おい、自分だけイって終わりなんて思うなよ。俺はまだ満足してねえ」
「や……やだ。もうやだよ……」
「あんだけ喘いでおいてよく言うぜ。まだ身体が疼いてしょうがねえだろ。お前のここは、もう指だけじゃ物足りねえもんな?」
膝を付いてしゃがんだ凌牙が濡れた陰部に触れてくる。刺激に敏感になっている身体は、あっけなく火がつき、凌牙のものを求めて震えた。
凌牙は遊馬を立たせると、近くの机に上半身を伏せさせた。臀部を向けるような体勢に、慌てて起き上がろうとする。
「やだっ!シャーク、やだってば!!」
「お前の意見なんか聞いてねえよ」
首の後ろを押さえつけられ、冷たい机に顔を擦り付けられた。カチャカチャとベルトを外す音が聞こえて焦る。
「どうしたんだよシャーク!こんなの、いつもと違うじゃないか!」
「はあ?いつも通りだろ。押さえつけて、這いつくばるお前を犯す。何が違うってんだ」
「全然違うよ!だって最近は……優しかった!」
タッグデュエルをした頃から凌牙の雰囲気は変わった。他者を寄せ付けない、氷のように閉ざされた空気が薄らぎ、春の木漏れ日のような微笑を浮かべるようになった。遊馬に強姦まがいの暴行を加える回数も極端に減ったし、たまに身体を求められても、無体を強いることはほとんどなかった。心なしか触れてくる手つきも優しくて、まるで恋人同士がセックスでもしているような酩酊感さえ覚えた。
しかし最近になって、凌牙はまた雰囲気を一変させた。WDCに参加すると言い出した辺りからだったと思う。初春の雪解けの季節の中にいた彼は、遊馬の知らないところで、再び全てを凍てつくす真冬の中へと逆行していた。しかも初対面の頃のような、全てを諦め雪の中に身を埋めるような暗い感情ではない。激しい吹雪の中にあえて身を晒し、突き進むかのような凄まじい激情を抱えていた。
「一体何があったんだよ!?こんなやり方しなくても、話してくれればいいじゃないか!」
身体を繋ぐことでしか凌牙の心を受け止められなかった頃とは違う。あれから何度も言葉を交わして、デュエルをして、少しずつ友好関係を積み重ねてきた。身体ではなく、心で繋がり合うことだって出来るはずだ。
遊馬の言葉に心揺らしたように、凌牙の手から力が抜けた。彼の表情を窺い見ようと顎を上げたが、気付いた凌牙が再び机に押し付けてきた。
「シャーク……!」
首根っこを押さえつけられては身動きが取れない。
背後で凌牙が舌打ちした。
「チッ……!イラつくんだよ!遊馬、てめえは大人しく穴だけ貸してりゃいいんだ!」
「!!!」
あまりの暴言に呼吸が止まる。
確かに築いてきたと思っていた関係は、遊馬の錯覚だったのだろうか。凌牙にとって遊馬は、鬱憤と性的欲求をぶつけるためだけの体のいい存在でしかなかったのか。
(違う)
泣きそうな心の中で、遊馬は強く否定した。
そんなわけがない。確かに心を通わせていると感じたのは勘違いじゃない。
遊馬が本当にどうでもいい存在なら、凌牙は見向きもしないはずだ。暴力でも何でも、他の人には見せない激しい心のうちをさらけ出すのは遊馬だけだ。
凌牙は負の感情を自分の中に押し込めようとするタイプなのだろう。高いプライドがそうさせているのかもしれない。蓄積されたそれらを吐き出す術を知らず、結果的に周囲に当たってしまう。最初に出会った時もそうだった。公にデュエルができない鬱憤を、他人のデッキを強奪するという屈折した行動に変換していた。
遊馬に向けられている暴挙も同じだ。何を抱え込んでいるのか知らないが、あの頃より更に深い闇を抱えた彼は、遊馬に当たることで感情を発露させている。
まるで迷子の子供だ、と思った。望む場所へ行きたいのに、そこに続く道が見つけられず、苛立って喚いて当り散らしている。
この行為を受け止めることで、荒立つ凌牙の心を少しでも鎮められるのなら。
遊馬は耐えるように目を瞑った。
「っ」
突き出した臀部に熱い塊が当たる。きゅっと唇を引き結んだ。
濡れぼそった蜜を絡めるように割れ目の上を行き来した後、凌牙が内部にねじ込まれた。襞を捲り上げて押し入ってくる肉棒に内股が震える。しかもバックから突かれているこの体勢では、先ほど指で弄られた性感帯を容赦なく擦り上げられてしまう。
「んぁあっ」
甘い声が上がって、慌てて口を硬い机に押し付けた。声が我慢できない。口を塞いで耐えようとするが、挿入時の圧迫感から身体が酸素を求めて喘ぐ。冷たかった机は遊馬の吐息で薄く曇った。
「はッ、はっ……」
「動くぜ」
「やっ、まだ待っ」
静止の言葉は無視され、ガツガツと腰を前後に動かされた。硬い亀頭が遊馬の弱いところを狙いすまして穿ってくるものだから、ビクビクと全身が震えるのを止められない。
「ぁああッ!あっ、ん、ンふぅッ!」
凌牙に開かされた身体はすっかり快楽に従順になっていた。いつの間にか首を押さえる手は外されていたが、与えられる熱い刺激に打ち震え、机に縋りついて悶える。
「はっ、バカな、奴だぜ!俺に、関わらなきゃ、こんな目に遭うことも、なかったのによッ!」
激しいピストン運動に息を荒げながら、凌牙は嘲笑った。容赦のない突き上げに怒涛のような快楽が湧き起こり、遊馬は恐怖を感じる。
こんな手酷い抱き方をされるのは、それこそ最初の時以来だった。遊馬は正常位より後背位のほうが感じる性質だ。あまり強く突き上げられると、許容量を超えた快楽に参ってしまうことを凌牙も知っている。だから加減の分からなかった初めての時以外は、この体位を取る時、あまり激しく責められることはなかった。凌牙自身を根本まで挿入し、緩くグラインドされるだけで善がって泣き叫ぶような状態なのだ。だというのに、感じる部位を手加減なく突かれては、瞬く間に二度目の絶頂へと押し上げられてしまう。
「アあぁあアアァあッ!!!」
真っ白な世界に意識が飛んで、急激に落下する。膣の内部がきゅうっと締まって凌牙のモノを捕らえた。感じすぎて、これ以上動いてほしくない。
あまりの締め付けに凌牙も動作を止めたが、内部が弛緩した隙をついて再び動き出した。
「やぁっ!シャーク、やめッ」
「俺はまだイってねえんだよ」
「あああッ!!や、変えて、逆向きにしてェ!!」
せめて体位を変えてほしかった。遊馬とは逆で、凌牙はバックではなかなかイけないらしい。抉る角度が違うだけで感じ方がだいぶ違うように、凌牙にも達しやすい体位というものがある。
身体を重ねるうちに、自然と互いの好みを覚えてしまった。二度も絶頂を迎えた遊馬としては、早くこの行為を終わらせてしまいたい。上半身を起こして身体を反転させようとしたが、凌牙が背中に覆いかぶさってきて、制された。
「いいから感じてろ……俺が満足するまで、へばるんじゃねえぞ」
「んふぅ……ッ!」
体内に埋められた熱がぐりぐりと性感帯を刺激し、遊馬は口を自分の腕に押し付けた。達したばかりなのに、また昇りつめてしまいそうになる。強すぎる快楽に耐えていると、背後から胸の膨らみを掴まれて、涙が浮かんだ目を見開いた。
「ンあッ!ふっ……!」
前戯の段階で前開きのブラのホックは外されている。凌牙の手にすっぽりと収まってしまうサイズの膨らみを両手で揉み上げ、頂を摘んだ。ピリッと痛みが走った後にそれは甘い疼きに変わる。
「んふうぅぅ……っ!」
たまらず遊馬は全身を淡く染め上げ、背中を反らせた。三度目の絶頂だった。
立て続けに達したせいで、もう身体に力が入らない。ぐったりと机に寄りかかった。机の無機質な冷たさが火照った身体に気持ちいい。
「ったく……へばんなっつったろーが」
「んん……」
張りつめた性器が引き抜かれる。凭れかかった身体を反転させられ、机の上に寝転がせられた。涙で潤んだ視界で彼を見上げる。
やっと目に入れることを許された凌牙の顔は、欲情に染まっていたが、幾分か激しさが抜け落ちた柔らい微笑が浮かんでいた。望みどおり善がり啼く遊馬に満たされたものを感じたのかもしれない。
近頃、暗い感情を堪えた顔ばかりを見ていたから、遊馬もほっとして頬を緩めた。
「シャーク……キスして……」
手を伸ばすと、凌牙は目を細めた後、手を握り返して顔を寄せてくれた。下唇を食むように愛撫して、歯列の合間からするりと熱を差し込んでくる。遊馬は夢中になって自分から舌を伸ばした。
絶頂地獄のような乱暴な抱き方をされても、離れられないのはこのキスがあるからだ、と熱に浮かされた思考で思う。強引に身体を繋げた人物と同じとは思えない甘いキスは、まるで許しを請うかのようだった。
深く絡めた口腔内で唾液を交換していると、相手の心の深い部分が流れ込んでくるような感覚を覚える。御しきれない激しい感情を誰かにぶつけざるを得ないことに苦しんでいる凌牙の気持ちに触れた気がした。
いいんだ、もっとさらけ出してくれていい。
言葉で伝えても逆に心を閉じてしまう彼だから、身体を張って凌牙を受け止めた。
「ゆま……」
唇を触れ合わせたまま、かすれた声で名前を呼ばれると、女としての部分が疼いた。
「シャーク……、ッ!?」
凌牙の熱が再び女陰を割って挿ってきて、遊馬は驚き身体を固くした。すぐに凌牙が一度も達していないことを思い出して力を抜く。熱く蠢く内壁にさんざん煽られた凌牙のものは、余裕なく遊馬の中を突いた。
「あぁん!はっ、あ、アッ、ん」
後ろから挿入された時のような暴力的な快楽ではないが、過敏になっている内壁が余すことなく刺激を拾い上げ、遊馬は切なく身体を捩った。硬くて太いモノに貫かれる衝撃で、勝手に声が上がってしまう。襞を捲り上げられる度に蜜が溢れ、ぐちゅぐちゅと鳴る水音が淫靡な気分を高めてゆく。
「やっ!またイッちゃ、イッちゃう……!」
感じすぎて苦しい。喉を引き攣らせて嗚咽する遊馬を、凌牙は強く抱き込んだ。力強い腕に縋りつく。
「っ、あ、あアァああ……!!」
「くッ……!」
達した身体は衝撃に跳ねる。ピンと爪先が伸びて、内股が痙攣した。
強い締め付けに凌牙は感じ入った声を漏らし、膣から自身を引き抜く。白濁した欲を自分の手の中に吐き出した。
「シャ、ク……」
荒い息を吐きながら、身体を離した凌牙の体温を求めた。抱きしめてほしかった。行為の後に甘やかしてほしいと遊馬は望むが、一度射精すると冷静さを取り戻す凌牙は、伸ばされた手を素っ気なく無視した。
「いい加減、懲りろよ……。どこまでバカなんだ、お前は」
やるせない溜息をついて残滓をポケットティッシュで拭う凌牙の表情は見えない。遊馬はまだ絶頂の余韻に浸って小刻みに震える体を起こした。
「バカでいい……シャークを放っておくなんて、できないよ……」
「仲間だからか?ハッ、そういう同情が一番イラッとくんだよ」
「同情じゃない!そんなんじゃ……!」
「じゃあ何だよ」
暗い色を纏った眼で射抜かれ、遊馬はうろたえた。この感情を何と呼んでいいのかわからない。恋と呼ぶには段階をすっ飛ばしすぎている。
ただ、願ったことはひとつだけだった。
「俺はシャークに笑っていてほしいだけだよ……」
それはエゴだ。温もりのある笑顔を浮かべる凌牙を見た時、胸が打ち震えるほどの喜びを感じた。その顔をもっと近くで見ていたかった。だから身体を差し出した。
「……バカじゃねえの」
冷たく凌牙は切り捨てた。もう、遊馬を顧みることもしなかった。身繕いを終えると、彼女を放って教室を出て行く。
たった一人、乱れた格好で取り残され、遊馬は悲しくなった。熱を交わしている最中はあんなにも心を近くに感じたのに、終わった途端噛み合わなくなる。どうすれば凌牙の深い部分を許してもらえるのか分からない。
「シャーク……」
それでも遊馬は諦めない。無視されても、鬱陶しげに睨まれても、何度だって手を伸ばす。いつかそれが、凌牙に届くと信じてる。
けれど今だけは、急激に冷えていく身体の熱が虚しくて、涙が零れるのを止められなかった。



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