少年少女よ、これが絶望だ4 | ナノ




表面上は平静を装いながらも、緊張に高まる鼓動を抑えられなかった。ごくりと唾を飲み込む。
凌牙にセックスの経験などない。仲の良かった女の子と付き合いの真似事をしたことはあったし、ファーストキスも済ませていたが、さすがに体の関係はなかった。まだ14歳の中学生なのだ。セクシャルな方面に興味関心はむろん持ち合わせていたが、実際に女性器を目の当たりにしたのは初めてだった。
それでもやるしかない。
咽び泣く遊馬を放っておけなかった。彼女が困っているなら力になろうと常々思っていたのだ。
それに凌牙だって、好きな女の中に忌まわしい男の精を入れたままにしておくなど言語道断だった。
初めて遊馬に触れるのがこんな形になったことに悔しさを覚えながら、そろそろと指を這わした。溝を確かめるように何度か往復させ、中指を割れ目に食い込ませる。
遊馬がびくりと身体を跳ねさせた。
「った!いた、い……」
苦悶の声に、慌てて指を引き抜いた。傷口に触ってしまったようだ。
位置をずらして再度の挿入を試みたが、やはり遊馬は「痛い、痛い」と泣いてしまう。
凌牙は困惑した。これでは中のものを掻き出してやることができない。
「遊馬、少しだけ我慢してくれ。いいな?」
どう触れても痛むのなら、強引に割り入ってさっさと済ますのが一番だ。
遊馬はユニットバスの縁に座って、目を閉じたまま唇を噛み締めている。怖がっている彼女の前に跪きながら、凌牙はシャワーのノズルを床に置き、遊馬の腰に手を回して押さえた。躊躇いを捨てて、一気に中指を挿入する。
遊馬の口からか細い悲鳴が上がった。
「あっ、う……!イタ、いたい……ヤっ」
異物を排除しようと蠢く内壁を掻き分け、奥へ突き進む。
熱く締め付ける感触に男としての欲望が頭をもたげたが、頭を振って雑念を払い落とした。
行為からあまり時間が経ってないせいか、もう1本くらい入りそうだ。そっちの方が手早く終わらせられるだろう。続けて人差し指も挿入し、溜まった残滓を掻き出そうと動かす。
その時、太股を引き攣らせて耐えていた遊馬が突然暴れ出した。
「ヤダアアァアアアァア!!!痛い、イタイ!!」
「っ遊馬!」
逃げようと腰を引いてバスタブの中に転げ落ちかけたものだから、急いで指を引き抜き、両腕で抱きとめた。それでも凌牙の身体を叩いて、滅茶苦茶に身体を捻る。危ないのでバスルームの床の上に倒し、全身を使って押さえつけた。
「遊馬!オイ、暴れるな!」
「ヤダアぁあッ!!放せ、放せよ!」
「急にどうしたってんだ!」
蹴り飛ばされたシャワーのヘッドが天井を向き、ふたりに向かって降りかかった。身体を覆っていたシーツは格闘の最中に剥がれ落ちている。
「やだ、やだ!!……助けてシャーク!!」
悲痛な絶叫に、凌牙はハッとした。
「助けて、助けて!シャークっ、シャークゥ!」
遊馬の目の焦点が合っていない。ここではない別のどこかを見ている。中心を抉る痛みに、Wの暴行の恐怖が蘇ったらしい。
胸が締め付けられた。陵辱されている最中、こうやって凌牙のことを呼んでいたのかもしれない。
いつも輝いていた遊馬の瞳が暗く濁っていた。かつて凌牙が堕ちた場所よりも、ずっと暗くて深いところに囚われているのがわかった。
「落ち着け遊馬!ちゃんと見ろ!俺ならここにいる!」
「やだやだヤダアアッ!!放せよ!シャーク、助けてぇえ!!」
「遊馬!!」
声も聞こえていない様子の遊馬に業を煮やし、その顎を掴んだ。
噛み付くように口付けた。
凌牙の口の中で叫んでいた遊馬だが、呼吸を奪われたことで息苦しくなり、ようやく意識が現実に引き戻されたようだった。
「……シャー、ク……?」
呆然と凌牙を見上げる。戸惑いに揺れる大きな眼が凌牙の唇を見つめた。
しまった、と思った。つい口付けてしまったが、マズいことをしてしまった。遊馬は彼女でも何でもないのだ。
「……ごめ、ん……」
なぜか、遊馬のほうが謝りだした。
「ごめ……俺、たぶんシャークの気持ち、知ってる……。ごめ……ごめんな……俺、もう駄目だ。シャークに触っちゃ駄目なんだ。……キタナイ、から……」
「何言ってやがる!汚いわけないだろ」
「でも……」
「でもじゃねえ」
目を逸らそうとする遊馬の耳の後ろに手を入れて、こちらを向かせた。
「お前は汚されてなんかいねえよ。そんなふうに言うな」
「だって、シャークが汚れちゃう……」
「汚れねえ」
再び彼女の唇に顔を寄せた。こんな形でしか、上手く気持ちを伝えられない。
「俺は汚れねえし、お前だって汚されちゃいねえ」
「シャ……んっ」
「何度でも言うぜ。遊馬、お前は汚くない」
「ん……ふっ……」
唇を触れ合わせるだけの幼い口付けと、その合間に落とされる囁きは、徐々に遊馬の心を解いていった。キスの後、遊馬は潤む瞳で凌牙を見つめた。
「いいの……?シャークに触っても、いい?」
「当たり前だろ」
目に力を込めて見下ろすと、ようやく遊馬は救われたように微笑んだ。濁っていた瞳に光が射し込む。
起き上がった彼女が身を寄せてくるのを受け止めながら、凌牙は目を閉じた。
(触れる資格がないのは……俺のほうだ)
凌牙が遊馬を想っているから、Wの毒牙にかかった。本来、凌牙とWの確執に遊馬は無関係だ。こんな目に遭ういわれは無かった。
慰めるように額に口付けると、遊馬ははにかみながら受け止めた。
「俺さ、キスしたの初めてなんだ……」
「そうか」
「よかった……。ファーストキスがシャークで、よかった」
そう言って少女は、凌牙の胸の中で涙を零した。暗い絶望の中からようやく踏み出した彼女の涙は、キラキラ輝いていて美しかった。
その雫を舐めとりながら、愛しさの分だけ罪悪感を覚えた。
「遊馬、すまなかった……助けられなくて……」
「……うん……」
「その代わり、痛い思いはさせねえから……」
「え?」
何のことかと見上げてくる少女の片膝を立たせ、陰部に触れた。ビクリと遊馬の身体が震える。
「ま、待って!」
「待たねえ」
「だって無理だよ!本当に痛いんだ!」
「わかってる」
挿入はしなかった。代わりに、性器の上部にある突起に触れた。縮こまったそれを指の腹で押しつぶしてやると、別の意味で遊馬の内股が震えた。
「やっ!な、なにっ?」
初めて人の手に触れられた部位の強烈な感覚に、遊馬は動揺を隠せずにいる。構わず秘豆を指で挟んで摘んだ。
「あっ、んんんッ!」
「女のペニスみたいなもんだ。感じるだろ?」
「はっ……あんッ」
鋭敏な感覚に戸惑い、必死に凌牙の腕に縋ってくる。先ほどとは違い、甘さを含んだ声を上げる遊馬に、凌牙はいけると感じた。遊馬を愛しく想い、守りたいと願っているのに、Wと同じ苦痛しか与えられないなんて冗談じゃない。精液を掻き出すにしても、痛み以外のものを感じさせてやりたかった。


ぞくぞくと全身を駆け巡る感覚に、声を抑えることができなかった。思わず上がってしまう嬌声が恥ずかしくて、凌牙の胸に頭を擦り付ける。
性的な事柄に疎い遊馬でも、これははっきり快楽だと直感した。
Wのものを膣内に埋め込まれ、揺すられた時に感じたものとは全然違う。もっと直接的で刺激的だ。
「んっ、んッ……ハアっ、あっ、う、シャ、シャーク……!」
凌牙の指が触れている部分が、火のついたように熱くなった。身体の奥から何かが溢れてくる。割れ目の入り口が震えた。
「ダメ、ぁっ、はッ……シャーク、お、おかしくなる……!」
「大丈夫だ。そのまま感じてろ」
「や、やだ!……あッ、ん!」
強制的に快楽を詰め込まれて、心がついていかない。高められていく身体の熱に、どうかなってしまうのではないかと僅かな恐れを抱いた。
けれど、Wの時とは違った。未知の行為に恐怖しているが、あの時ほど怖くない。相手が凌牙だからだろう。痛がる遊馬のために指を引いてくれる凌牙だから、怖いけれど、もうちょっと頑張ろうと思えた。この行動も遊馬を気遣ってのことだ。怯む心を奮い立たせ、凌牙が与える刺激を必死に受け止めた。
すると不思議なことに、絶対に触ってほしくなかったはずの奥が疼き出した。
「はっ、んぁ……ふ……シャーク、シャークぅ……!」
「ん?」
「へ、変なんだ。なんか、ムズムズする……」
熱く火照った顔で凌牙を見上げると、彼は虚を衝かれたように瞠目して、それから嬉しそうに頬を綻ばせた。
「触っても大丈夫か?」
「う……うん。たぶん……」
女陰は蜜で濡れていた。溢れ出た愛液に押し出されたのか、白濁したものも混じっている。
それらを拭い取るように凌牙の指が割れ目を撫でた。
つぷり、と長い指が挿入される。
「……ッ!!」
やっぱり鋭い痛みが走って、遊馬は息を止めた。上がりそうになった悲鳴を噛み殺す。
しかしそんな強がりはあっさり見透かされ、凌牙は気遣わしげに濡れたTシャツの上から背中を撫でた。
「痛えか?」
「イタイ……けど、でも、大丈夫……」
「本当だろうな?」
「うん……。痛い、けど……それだけじゃないから……」
確かに痛い。傷口を擦られれば痛むのは当たり前だ。
けれど痛みの他にも違う感覚があった。もっと掻き回してほしいと甘く疼く欲が灯っている。
指を動かされると痛みと快楽が一度に押し寄せてきた。しかしやがて、快楽のほうを強く感じるようになる。中の残滓を掻き出しながらも、凌牙が陰核を刺激することをやめなかったからだ。終いには痛覚すらも一種の快楽に変わり、遊馬は身を仰け反らせた。
「あぁン!はあっ……そこ、ダメェ!」
「ここか?」
「ヤッ!!あ、ああッ、ふ、ん……シャーク、シャーク……!」
悶える遊馬の身体がバスルームの床に横たえられた。膣内を蠢く指は最早、吐き出された精液の始末をする動きではなくなっている。遊馬が感じる部分を探り、強く刺激してくる指に、遊馬は甘い啼き声を上げた。
「あっあっ、な、何かくる、やっ、シャークぅ!!」
どこかへ飛ばされそうな予感に、必死になって凌牙の首へ縋りついた。
どこにも行きたくない。凌牙の腕の中にいたい。
高められていく感覚に慄き震えると、強い力で凌牙が抱き返してくれた。
「掴まえててやるから。……イっちまえ」
「あっ……あ、あぁアアあァああアアア!!」
目の前に閃光が走った。視界が真っ白に染まる。ふわりと意識が浮かび上がって、呼吸を忘れた。
初めての絶頂にビクビク震える遊馬に、凌牙はキスを落とした。宥めるような口付けに、絶頂の余韻に浸っていた遊馬は身を摺り寄せた。凌牙が好きで、好きで、1ミリだって離れていたくない。
「んっ……」
指が引き抜かれ、その動きにも膣が疼いた。絡む脚を動かし、身じろぐ。
その時凌牙の中心に太腿が当たって、熱く硬くなっているモノの存在に気付き、ハッとした。
「シャ、シャーク……」
「ああ……悪い」
バツの悪い表情になって、凌牙は上から退いた。遊馬も身を起こす。
シャワーを出しっぱなしにしたまま事に及んだため、全身ずぶ濡れの状態だった。
気まずそうに顔を逸らしている凌牙を見つめ、ごくりと唾を呑む。
「い、いいよ。やっても。今ならたぶん大丈夫だ。できると思う。だから……」
「駄目だ」
即座に凌牙は切り捨てた。
「今お前の中に挿れたら、絶対後で死にたくなる」
「え……」
それは、他の男の手に掛かった女など願い下げ……ということだろうか。
表情を強張らせると、パコンと頭を叩かれた。
「馬鹿、何ヘンな顔してんだ。お前がどうこうってわけじゃねえよ。……本音言えば、今すぐ挿れてえし」
「じゃあ何で?」
「………」
答の代わりに抱きしめられた。熱い吐息が耳をかすめる。
「今は……抱くよりこうしていてえ……」
肉体的な欲望よりも、傷ついた遊馬を慈しんでいたいという凌牙に、遊馬の心は温かくなった。ああ言ったけれど、凌牙のものを受け入れるのは、まだちょっと怖かった。
(やっぱりシャークは酷いことなんかしない)
凌牙だって男だとせせら笑い、遊馬を抱きたいはずだと断言した男に、ザマアミロと舌を出す。凌牙はWなんかとは違う。遊馬の気持ちを無視なんかしない。
行為においてもそうだった。Wの性器で内部を痛めつけられた時、確かに痛みとは違う感覚がした。Wの言うとおり、それは快楽の一種だったのかもしれない。激痛から気を逸らすため、遊馬の身体が必死で拾い集めたのかもしれなかった。けれど、絶頂を知った今、凌牙が与えてくれたものとは全く別物だと断言できる。
同じ指で内部を解されるのでも、ただ広げたいだけの動きと、遊馬を気持ちよくさせようとする動きとでは、遊馬側の受け止め方が違った。Wのそれはセックスではなくただのレイプでしかなかったのだとわかる。心が受け入れているかいないかで、快楽の度合いも、感じ方も、全然違っていた。
Wの残滓を洗い流し、新しい熱に書き換えてもらって、遊馬は本当に救われたのだと感じた。




幸福そうな表情で目を伏せる遊馬を胸に抱きながら、凌牙は心の中で謝罪を繰り返していた。
(すまねえ……本当にすまねえ)
凌牙の想い人というだけで標的にされてしまった。やはり関わるべきではなかったのだ。
遊馬といると、陰でしか生きられない凌牙でも陽だまりの中にいるような気分になって、それが心地よかったものだから、つい彼女に構ってしまった。好意を自覚してからは、なるべく目に入る範囲にいてほしくて、共に行動する時間を増やした。周囲からカップル同然の扱いを受けることにも優越感を抱いた。
そうした行動が今回の件に繋がった。
(だから)
凌牙は決意する。

(遊馬、お前には二度と関わらねえ)

いつか彼女から受けた恩を返したいと思っていた。それが今だ。
暗く濁っていた遊馬の瞳は光を取り戻している。少しでも彼女の傷を癒せたのなら本望だ。あとは凌牙が離れれば、遊馬が暗い世界に足を絡め取られることもなくなる。
ただひとつ気がかりなのは、妊娠の可能性だった。その時は責任を取るつもりだ。中絶の費用は全額負担する。万が一、遊馬が出産を選んだとしても、自分の子供として認知するつもりだった。そうすれば世間の非難は遊馬ではなく、孕ませた凌牙へ向けられる。
(遊馬、お前に辛い思いは二度とさせねえ。今度こそ守ってみせる)
例えそれが、関係を断つという手段であっても。
一度強く抱きしめて、腕を放した。濡れて纏わりつくズボンのポケットからハートピースを出して、遊馬に握らせる。
「これはお前にやる」
「えっ……。シャーク、もう集めたのか!?」
「ああ。お前が持ってろ。こんなことになって……予選なんてとても無理だろ。これがあれば本戦に行ける。貰ってくれ」
「でも、そうしたらシャークが……」
「また一から集めるさ。まだ時間はあるからな」
「じゃ、じゃあオレのピース貰ってくれよ!何個かは自力で集めたんだ。なっ?」
「……ああ」
凌牙としては恩返しの一端だったのだが、受け取らなければ遊馬は納得しないだろう。互いのピースを交換して、思ったよりハート型に近づいている遊馬のピースに驚いた。
「お前にしちゃ頑張ったじゃねえか」
「へへっ。俺だってやる時はやるんだよ!」
「ま、ヘボデュエリストには違いねえがな」
「なんだとー!?」
いつもの調子で噛み付いてくる遊馬と軽口の応酬が始まる。
もうじき失われる『いつもの』時間を思い、凌牙は心の中で密かに涙を流した。



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