手当て | ナノ


手当て


※シャークさんがにょた化
※ゆま凌♀でも、にょた攻めの凌♀ゆまとでも、お好きに捉えてください







朝から調子が出ない。
遊馬は弁当を食べるのをやめて箸を置いた。
隣で缶コーヒーを飲んでいた凌牙が怪訝な表情になる。
「どうした?半分も食べてないじゃねえか」
「いや、ちょっと腹の調子が悪くてさ。食い切れそうもないや」
登校した頃からチクチク腹が痛んでいた。何度かトイレにも行ったが症状は改善されない。しかし保健室に行くほどの痛みでもないので、気にしないようにしているのだが、ふとした時に存在を主張するものだから、午前中ずっと調子が出ないでいた。
「何か変なものでも食ったんじゃねえの」
そっけなく言って、凌牙は空になった缶コーヒーを数メートル離れたクズ籠に向かって投げた。見事ホールインして、遊馬はパチパチと拍手を送る。
昼休みの中庭と言えば、羽を伸ばす生徒達で溢れかえりそうだが、この学校ではそうでもない。休み時間ともなれば多くの生徒はデュエルフィールドのほうに足を向けるので、そこから少し外れたところにあるこの場所は穴場なのだ。
遊馬も凌牙に連れてこられるまで、こんなスペースがあることを知らなかった。
「よかったらシャーク、残り食う?」
「いや、いい。もうお腹一杯だ」
「って、パンひとつしか食べてないじゃないか。相変わらず小食だなー。だからそんなに細いんだ」
「これでもスタイル維持すんの大変なんだよ」
億劫げに嘆息する。
1コ年上の彼女はスレンダーな体型で、女子の制服から除く白い脚も、腕も、何もかも細い。男の遊馬からすると、もっと肉を付けていいと思うのだが、そう言うといつも凌牙は恐い顔で睨んでくる。男子と女子とで考える理想の体型は違うようだ。
「ったたた。また痛くなってきた……」
前触れもなく痛み出した腹部を押さえて呻く。
言うほどの痛みでもないが、無視もできないという微妙な刺激が、気分を憂鬱にさせた。
「あーもう、これじゃあかっとビングできないぜ……」
じくじくと膿むような痛みに腹を擦りながらぼやくと、横から細い手が伸びて遊馬の腹部に触れてきた。
「え……シャーク?」
「痛いんだろ?温めたほうが治り早いんじゃねえ?」
腹を包むように手のひらを広げてくれる。
意外な彼女の行動に驚いた遊馬だったが、(そういえばシャークって普段そっけないくせに、何かあると途端に構ってくるよなあ)と思い出した。
母性本能なのか、一応彼氏であるはずの遊馬を手のかかる弟扱いしているのか定かでないものの、凌牙に世話をやかれるのは遊馬も嬉しくて好きだった。
後ろから抱きしめるように両腕を回して温めてくれる。
すると背中に柔らかな乳房の感触がして、ドキッと心臓が高鳴った。
(う、わ……)
これはまずいだろう。
遠慮して身体を少し前に倒したが、凌牙は構わず追いかけてくる。
「おい、逃げんな。腹痛いんじゃねーのかよ」
「そ、そうなんだけどさあ」
じくじくと断続的に続く痛みよりも、背中に当たる感触のほうが強烈だった。
しかし離れようとしたのが気に入らなかったのか、凌牙はさらに抱き締める腕に力を込めて、遊馬の背中にピタリと張り付いてくる。
(当たってる、当たってるって!!)
言い出すに言い出せなかった。凌牙は100パーセント厚意でやってくれているのだ。
気付いてくれ!と心の中で叫ぶが、後ろから抱きついているせいで遊馬がどんな顔をしているのか見えないのだろう。凌牙は全く気にした様子がない。掌と腕で遊馬の腹部を温め続けている。
(これは手当て、そう、手当て!治療なんだ!)
必死に自分に言い聞かせる。
まあ、その気になれば凌牙の腕から抜け出るのは容易いのだが、それをしないでいるのは、もうちょっとこの感触を堪能していたいという邪な考えもあってことだった。
「そ、そういえばさ!昔はこうやって傷口とか患部に手を当てたから『手当て』って言うんだよな!」
どうでもいい話題を振ると、凌牙は否と口にした。
「そう言われてるけどな。本当は違うらしいぜ」
「え、そうなの?」
「もともと『手当て』って言葉自体に処置の意味があるんだってよ。それで治療の意味合いでも使われるようになったとか、何かの本で読んだことがある」
「へー。でも最近、手当て療法とかエネルギーヒーリングとか言うよな」
「語源はともかく、患部に手を当てることは昔からあったみたいだしな。手で温める行為に意味があるんだろ。誰かが側にいるって安心感も与えられるし。病は気からと言うしな」
そう言って、ぐいと胸を押し付けてくる。
ビクッと肩を揺らした遊馬は、おそるおそる振り返った。
「えっと、もしかして……わざと……?」
「半分はな」
凌牙はくつくつと笑ってみせる。
あっさり認められて脱力した。
「何だよ。焦ったあ……」
「最初は素だったんだけどな、お前が身体を硬くして背中を浮かせたところで気付いた」
「あっそう……」
「で、腹の痛みは治ったのか?」
「……あれ?そういえば痛くないや」
温められたのが良かったのか、病は気から――凌牙の胸の感触に気を取られたのが効力を発揮したのか、痛みは鳴りを潜めていた。
朝から痛んでは止んでの繰り返しなので、単に止む周期に入っただけかもしれないが、少なくとも今現在、痛みはない。
そう告げた途端、あっさりと腕が解かれて、離れていった熱に寂しさを感じた。
「あー……あのさ、シャーク。今の、もう一回やってくんねえ?」
「嫌だ」
にべもなく断られる。
さっきまでの彼女との落差に遊馬はガックリと肩を落とした。
本当に、何事もないとそっけない彼女なのだ。
「いーじゃん、もう一回だけ、なっ?」
「ウゼェぜ」
「シャークが抱きついてくれないならこっちから……」
「寄るなドスケベ」
それでも、最終的には年下の彼氏の願いを聞き入れてくれる凌牙は、やっぱり年上の彼女で、甘やかされてるなあと思いつつも、そういう凌牙の一面を見れるのがたまらなく嬉しい遊馬なのだった。



ドスケベな遊馬くんが書きたかったんです
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