ふつかめあるところに小さな村がありました。
とても穏やかで、自然に囲まれた村でした。


ある日、この村に子供が生まれました。
生まれると同時に、母親は命を落としてしまいました。
その子は雪のように白い髪と血のように赤い目を持っていました。
村の人たちはみんなその髪と目を恐れておりました。
母親を殺して生まれた悪魔だと罵る人もいましたし、なにか悪いことが起きる前触れだという人もいました。
石を投げる人もいましたが、だれもそれを止めることはありませんでした。
名前をもらうこともできず、ただ、シロ、と呼ぶだけでした。


村のはずれのぼろ小屋に住まうシロはひとりぼっちでした。
誰も関わることがないようにとそこにいつもひとり。
そんなシロの唯一のお友達は、小屋にやってくる鳥だけでした。
その鳥は美しい羽をしている白い鳥でした。
その目はシロとちがい、黒いまんまるな目でしたが。


またある日のことです。
いつもより遅れてお友達がやってきました。
鳥はシロにこう言いました。
「シロ、シロ、わたしのともだち。あおいとりのおはなしをしよう。もりにすんでる青い鳥だよ。空より青くて、海より鮮やかな青い羽をしているんだ。それに、とても綺麗な声で歌うんだよ。そりゃあ、私たちなんかよりずっと綺麗な声で歌うんだ。」
「君より綺麗な声で歌うの?君より綺麗な羽をしているの?」
十分綺麗な声で歌う、美しい白い友達。それよりもずっと歌が上手で、ずっと美しい青い鳥の話を聞いて、シロはびっくりしてしまいました。
目をまん丸にして、本当に?と何度も何度も聞き返してしまうほどです。
「あぁ、そうだよ。それにね、青い鳥はすごいんだ。」
「一体、どうすごいの?」
「それは会ってみてのお楽しみさ。ほら、青い鳥が今日は近くまで来ているんだ。聞こえるだろう?」
言われるとおりに、静かに耳をすませると、遠くからそれはそれは澄んだ歌声が聞こえてきます。今まで聞いたこともないほど綺麗な歌声で、シロは急に恐ろしくなってしまいました。
「会えないよ。だって、」
自分は嫌われ者なんだ。悪い存在なんだ。きっと青い鳥なんて素敵な存在には会えないし、あってはいけないんだ。
シロはそう思いました。
しかし、お友達はそんなシロの頭をそっと撫でて、言いました。
「シロ、こっちにおいで。わたしが連れて行ってあげるよ。大丈夫、青い鳥は歌を聴いてくれるひとが大好きなんだ。だから、シロも大丈夫。それに、わたしがいてあげるから。」
優しい優しい声でそう言ってくれるお友達。
いつだって本当のことを教えてくれるお友達でしたから、シロもすっかりいつもの調子に戻って笑いました。
「君が言うなら!」
「あぁ、そうだ。そのとおり。」
かくして、シロは村からも見えるほどの大きな大きな木へと向かうのでした。


大きな木にはいつもよりたくさんの鳥がいました。
その中でも一際目立つのは、お友達が教えてくれた青い羽の鳥たちです。
やってきたシロたちのことを嫌がる素振りもなく、それどころかシロの肩や頭にとまって、その綺麗な声を聞かせてくれるではありませんか!
たちまち嬉しくなったシロはもっともっとと鳥たちの歌をせがみます。
それが嬉しい鳥たちも、たくさんシロに歌ってみせました。
「ほぅら、わたしの言ったとおりだろう」
お友達はどこか得意げにそう言いました。
シロも嬉しくて、いつもは見せないような笑顔で頷きました。

やがて、そんな楽しいひと時も終わりが近づいてきます。
日が傾き、空が少しずつ暗くなってきた頃、鳥たちも家に帰らなければならないのです。
シロも帰らなければなりません。
しかし、帰りたくないシロは、もっと聞きたいよ、と鳥に言いました。
お友達はそんなシロを諭すように言います。
「ダメだよ、シロ。わかっておくれ。私たちも帰らないといけないんだ。けれど、シロはだめなんだよ。来てはいけないんだ。シロにも帰る場所がある。シロはそこへ帰らないといけないんだ。それが一番なんだから。」
一番の友達にきつくそう言われてしまっては、シロは何もいうことができません。
「わかったよ…でも、また聞きたいな。」
「あぁ、それくらいならお安い御用さ。だから、さぁ、また明日!」
そういってお友達も家へと帰っていきます。
他の鳥たちも、高らかに歌い上げながら帰っていってしまい、あんなに賑やかだった木の下にシロだけになってしまいました。

シロもしぶしぶと家へと足を向けましたが、寂しくてつまらない家になんて帰りたくありません。
もう少し、もう少しと木の下でぐずぐずとしているうちに、いつからかいた鳥がシロに話しかけました。
「やぁ、白い子。ごきげんよう」
「わぁ、びっくりした。ごきげんよう、大きな鳥さん。みんな帰ってしまったと思っていたよ」
その鳥は他の鳥たちよりいくらか体が大きいように思えます。
よく通る声で、楽しげに笑いながら、「あぁ、私はね、夜まで起きていられるんだ。」と教えてくれました。
それから、「白い子よ。君は家に帰らないのかい?」と聞きました。
シロは帰りたくないんだ、と答えます。
そうかそうか、と頷いた大きな鳥はシロに「青い鳥は好きかい?」と問いかけます。
もちろんと言うシロに、「それはよかった。」と言いました。
同時に、大きな鳥の影に隠れていたらしい小さな青い鳥が現れて、シロの頭の上へとちょこんと座ります。
「もうみんな帰ってしまったのに!」
「そうなんだよ。うたた寝しているうちにみんなが帰ってしまってね…一人で帰らせるには少し不安だったんだ。私はこれから忙しいし、よかったらその子を送っていってはくれないかな?」
願ってもいないお願いにシロは「任せて!」と満面の笑顔です。
それじゃあ、頼んだよ、と大きな鳥もどこかへ行ってしまい、シロは青い鳥と一緒に鳥の家へと歩き出したのでした。


「鳥さん、家はどこにあるの?」
シロがそう聞くと、鳥はまるでこっちだよというかのように飛び始めます。
夕日をきらきらと反射させるように飛ぶ青い鳥はとても綺麗に思えました。
こっちだよこっちだよと言うかのように鳴くその子を追いかけるようにして、シロはついていきます。
だんだんと日が沈み、やがてたくさんの星と月だけがあたりを照らしていました。
ほとんど真っ暗で、なぁんにも見えなくなってしまいましたが、シロには鳥の声がちゃんと聞こえていたので困ることはありませんでした。
「まだ家は遠いの?」
いい加減歩き疲れてきてしまったシロが鳥に尋ねましたが、答えてはくれませんでした。


そうしているうちに、朝がやってきます。
日が差し込んで、一瞬、世界が白く白く澄み切って見えました。
眩しくてぎゅっと目に力をいれ、それからゆっくりと目を開けます。
あたりはいつの間にか美しい森の中でした。
見たこともないような植物や、澄み切った池がきらきらと輝いているその場所に、シロはわぁ、と感嘆の声をあげました。

その中にある木の上に、小さな鳥の家を見つけました。
小さな青い鳥はくるくるとシロの頭上を回ったあと、その家へと入って行きました。
あたりからはお礼のように鳥たちの合唱が聞こえてきて、シロは嬉しくなりました。
無事に役目を果たせたシロは、安心と同時にどっと疲れに襲われて、すぐそばの木にもたれかかってしまいました。
「あぁ、ありがとうシロ。疲れただろう?少し休んでいくといい。」
いつの間にか来ていた大きな鳥がシロにお礼を言います。
半分ほど目を閉じてしまったシロもにっこりと笑って答えました。
「うん、そうするよ……ここはあったかくて、すてきなばしょだね……」
「そうともそうとも。安心しておやすみ、白い子よ。」
おやすみなさい、とシロは言ったつもりでしたが、しっかりと伝えられたかどうかはわかりませんでした。
そしてシロは生まれて始めてぐっすりと眠りについたのでした。


その後、村の人たちはシロがいないことに気がつきましたが、誰も気にすることはありませんでしたとさ。

めでたしめでたし。
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