「はぁー」

「なーにでかい溜め息ついてんだ、幸せ逃げるぞ?…まっ、頑張れよお疲れ様」

「おー、またな」

学校の講義を終え、図書室で勉強
元々頭がいいとは言えないおれは予習復習をきっちりしないと授業にはついていけないのだ。これほどまで天才という存在を妬ましく思ったことはない。秀才は別だ、素晴らしい。おれの目標…

「集中し過ぎたか…」

窓の越しに見た空には月が顔を出し朧気に辺りを照らす。あと少しだけ終わらせてから帰るかと再び席に戻ったときふと思い出したのはウチにいる変わった少年。子供なのにしっかりしてて、変な能力というものを持っていて勉強熱心。今は突然ウチに現れたその子と二人で暮らしている
いつもは何時に帰るか告げて外へ出る、今日も20時には帰ると言ったが時計を見ると22時は優に越えていた

「……まぁ大丈夫だろ」

飯も作りおきしていると伝えたしちゃんと電化製品使えてたし…
問題ない、そう割りきって閉館の放送を流す図書館から荷物をまとめて出た。向かうは家から近いファミレス
取り合えず今日分のレポートだけでも終わらせようと向かう脚を速めた


――――



「…ただいまー、ってもう寝てるか」

レポートを終わらせて家に帰ったころには0時を回っていて案の定家の中は真っ暗。出迎えてくれるかなと少しだけ淡い期待を抱いていたが無駄だった、なんせ相手は8歳の子供。この時間に起きてる方がおかしい
重い荷物を置き電気を付けようとスイッチへと手を伸ばそうとした時大きな衝撃が体を襲う。何とか倒れずに踏ん張るが頭の中は混乱中。なんせ真っ暗でそれが何なのか判断出来ないから、ただ仄かに伝わってくる体温から大体の予想はついたけど

押しそこねたスイッチをパチリと押しあかるくなった視界で飛び付いてきた子供の頭を撫でる。微かに震えていることに気づかないふりをして

「ただいま、ロー。珍しいなこんな時間まで起きてるなんて…」

「………」

何も言わずおれに抱きつく力を強くするローに苦笑する。始めのころはこの時間普通に起きていたローだが、彼の目の下に存在する隈を取ってやろうとおれが早く寝るよう仕込んできた。そのおれの努力あってか最近は遅くても23時には寝ていたのに今日は起きている。どうしたものかと、取り合えず頑なにへばりついて離れないローを引き摺るような形で歩き自分の部屋へと入るとベッドに腰かける。そして、ずっと黙り混んでいるローを腰から剥がし抱き締めてやった

「どうしたロー。黙ってちゃおれは何も分からねェ」

「………」

震える手でぎゅっと服を掴むだけで相も変わらず黙りのまま。どうしたものかと頭を悩ませていると聞き逃すような小さな声でポツリと、言葉を紡ぎだした

「……名前が」

「うん、」

「約束の時間になっても、帰ってこないから…」

「うん」

「っ…、不安…で」

「………」

え、何この生き物可愛い。
いつもは気持ち悪いとか、デレデレすんなとか大人なのにななんて暴言ばかり吐いている子が泣きそうになりながら"不安"って言った。
変なスイッチが入りそうになったので頭を切り替えローの話しに耳を傾ける

「おれ、いつも我が儘ばかりでっ…名前を、困らせてばかりだから」

「……」

「す、てられたかも…って」

「………」

こいつの家の事情なんて知らない
親がこの子に対してどういう態度をとってきたか分からない。でもここいらで見る微笑ましい家庭ではないことは確かだ。子供なのに殺気はすごいし警戒心も半端じゃない。それに…、前本人の口から"甘えたい"という言葉を聞いた。下を向いて必死に伝えるその姿を見てることも出来ず思いっきり抱き締めたのを覚えている

「…ばーか、捨てるわけないだろ。お前はおれの」

―大切な家族だからな

安心させるように笑いながら答えてやるとローはゆっくりと顔を上げた、その瞳はローにしては珍しく涙で濡れていておれはそれを優しく拭ってやる

するといつもの調子に戻ったのか今の自分の行動を思いだし顔を赤くしたローがそれを見られまいとおれの服に 隠すようにうめる

「……今の、なし」

「無理だな。ふてぶてしいローのあんな子供らしい姿を見えておれは嬉しいぞ」

「死ね」

悪態をついているものの赤く染まる耳を見れば自然と笑みが溢れてしまう。全くこいつは甘え下手だ

「もう寝ろ。おれもシャワー浴びたら寝るから」

「……すぐ戻ってくるか?」

「あぁ、すぐに戻ってくる。だから先に寝とけ、……離れないから」

ローに布団を被せ癖っ毛のある頭を撫でてから腰を上げる。今日はいいもん見れたしぐっすり寝れそうだ

「…名前」

「ん?」

「…………おやすみ」

「おやすみ、ロー」

電気を切り、扉を締める
早くしないとな
おれは風呂場に向かう脚を速めた
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