「ただいま、帰ったぞー」
バイトを終えて疲れた体を引きずりながらリビングへと続く扉を開ける。カチャカチャと聞こえる音は幻聴か…、閉じてしまいそうな瞼を無理矢理上げ中を見ると見るも無惨に解体されたテレビ、そして現在テレビを弄り続ける赤頭の少年
「………」
なんだこれは。
つーか、ここおれん家だよね。こいつは知ってる、知ってるぞ。最近ウチに突然現れた奇妙な少年だから忘れたくても忘れられない、それに頭がお花のようだ。だがこの物体はなんだ
おれのテレビはバイトして溜め込んだ金でやっとの思いで購入したものでこんなおんぼろの金属物体ではないはず。
……あぁ、おれは夢を見ているのか
ならば早く起きてくれおれの脳
「?何してんだ名前。んなとこ突っ立ってないでこっちこいよ!!このテレビってやつすげェー!!」
夢だ夢だ、…夢であって欲しいと頬をつねるおれにテレビを解体していた少年、キッドが急かすように服の裾を引っ張る。頬をつねると痛い、服に引っ張られる感じ、…これは現実
ってことは
漂われていた視線を無惨な姿に変貌したテレビへ向ける
あれは、おれが苦労して手に入れたテレビ…
「こっの、クソガキィィー!!!」
「いってェーっ!!」
力一杯キッドの頭を殴ってやった。そして、その衝撃に踞るキッドなどそっちのけてバラされたテレビのもとへと駆け寄り、一部を手にとって涙ぐむ。なんで、なんでお前はこんなにも恥ずかしい格好になってしまったんだ。あんなにも立派に映像を映していてくれたじゃないか、堂々存在感を出してたじゃないか、なのに…
ぐすりと哀しみに浸るおれにキッドは殴られたことが理解できず後ろで文句をいっている。お前なんか知ったことではない、おれの心は、頭はこのテレビのことで一杯なんだよ
「名前っ!!なんで殴るんだ、だってここにあるものは好きに使えって言ったの名前だぞ!!」
「好きに使えとはいったが"好きに使う=解体"なんて考えるガキが何処にいる!!」
「おれ」
「お前だ、け、だ」
胸を張って自信満々に言い放ったキッドをもう一度殴ったおれは間違ってなどいないだろう。痛みに悶絶するキッドを横目に大きく息を吐き捨て肩を落とす、まずは自分を落ち着かさせなければ。
「取り合えずパソコン」
テレビはどうしようもないので粗大ごみにでも出しておこう、っても金属の部品とかは燃えないごみか?…まぁどちらでもいい、安いテレビを探さなくては。テレビのない生活なんておれにとっては地獄だよ地獄、唯一の楽しみなんだからなコノヤロー
椅子に座りパソコンを起動させカタカタカチカチと様々なサイトを巡りにめぐる。おれは一つのことに集中すると回りが見えなくなるタイプだ。だからそんなおれの服の端を控えめに引っ張るりながらおれの名をキッドが呼んでいることなど気づきもしなかった
「…やっぱりそれなりのもんは少々値段が張るな…、でもおれ以上ボロいのは嫌だし」
「…名前」
「バイトのシフト増やしたらいけるか?」
「名前っ、」
「けどんなことしたら大学の講義の方に支障がでるだろうしな…うーん」
「名前っ!!!!」
「…あ?何、今おれ忙しいんだけど」
思ったより低い声が出たと思う。なんせ、大切な大切なテレビを ぶっ壊されたんだ、そりゃ不機嫌にもなるだろうよ。少しは静かにしていろとキッドに言い、ふたたびパソコンへと向き直る。が、すぐに聞こえた泣き声と嗚咽でキッドのへと体を向けることとなった
「ちょっ、何泣いてんだ!!」
「だって…っ、ヒック、名前、が」
「あぁあぁ、おれが悪かったって。怒鳴っちまったもんな」
キッドを抱き上げて落ち着くように叩いてやる。この際、服が汚れるとかそんなものはどうでもいい、キッドが安心して落ち着けるように大丈夫と声をかけながら泣き止むのを待った
暫くして肩に顔を埋めていたキッドがもぞりと動いたのを確認して体を離してやる。その目にまだ涙は存在するものの一応は泣き止んだらしい
「…ごめん」
「ん?」
「名前の大切なものだったんだろ、あのテレビ。…悪かった、壊しちゃって」
「……もういいよ。新しいの買うからさ」
おれはとことん子供に甘いらしい
これが同級の奴だったならぜんがく支払ってもらうまで離しはしない、むしろ倍返ししてもらいたいほどだ
「その代わり、次はバイト先で要らなくなった部品とか色々貰ってきてやるから弄るならそっちな。もう家の中のものを分解するなよ」
「っおぅ!!」
ニカッと笑うキッドに今回はよしとしてやるかと思うおれはどうかしてただろう
まぁ、次また同じことしたらぶん殴る。本気で…
(「名前っ!!この掃除機自動で動くのな!!気になってばらしたけど中身はよくわかんねェや」)
(「(それはおれの友人が貧乏なおれへの唯一の慰めでかってくれたやつ…)…キッド」)
(「んー?」)
(「お前もう出ていってくれ」)