先生と俺と別れまで


衝撃的なロードの言葉につい「は?」と声を漏らしてしまう。まぁ、いつかはこうなる日が来ることは覚悟していた…、ましてや彼は医大生、勉学に勤しまなければならない中こうして臨時として先生をしてくれていることが不思議なくらいで。しかし突然過ぎじゃないか?今週一杯って…、あと3日しかないじゃん!

「ロード…、それっていつ決まってたんだ?」
「先週」
「ならもっと早く言えよ!」
「仕方ねェだろ。こっちにも事情ってもんがあんだから」

ハァと息を吐き出し先日ペトラちゃんのお母さんから貰ったクッキーを口に放り込むロードを引き止める術など俺は知らない。いや、本来なら就職おめでとうと祝ってあげるのが普通であるがしかし、此方にも事情というものが存在するわけで。
彼にいてもらわないと解決できない問題が幾つかあるわけで

「ってことだから、園児には適当に説明しといて」
「…おぃ、挨拶の一つくらいはしていけよ」
「……」
「ロード」
「……んなことしたら離れられなくなんだろ」
「へ?」

予想外の言葉に間抜け顏を晒す俺をチラリと見てはクスリと笑い、ロードは今まで見たことのない優しげな笑みを浮かべては机にはせてある何かを指で撫でる
そこには園児から貰ったであろう手紙や似顔絵が隙間なく飾られ、普段園児に然程興味をしるしていない態度を示す彼からは想像も出来ないそれに唖然とするしかなかった

「お前らに俺がどう映ってんのかは分からねェが、こう見えて餓鬼は嫌いじゃねェんだ。彼奴らに懐かれるのも悪くはない。…だから」

ー俺が居なくなると知った時の餓鬼の顔なんか見たくねぇ

何故?なんて聞かなくても分かりきっている。
”離れられなくなるから”
思えば園児達の我儘に面倒くさいと漏らしながらもそれら全てに付き合っていた。自ら勉学に勤しまなければならない中彼に会いたいという園児達の願いを受け入れ臨時にも関わらず毎日のようにこの幼稚園に足を運んでくれた。そんな彼に俺たちのしがない理由で引き止めるのは御門違いなんだろう。ましてや、改善する努力さえあまりしていないのに…

「…分かった。でも、俺たちには見送りぐらいさせろよな!」
「それぐらい構わねェよ」

午後6時を告げる鐘の音が辺り一帯を包み込むように鳴り響いた

(「就職先ってあの山越えた先んとこ?」)
(「いや、東京」)
(「…遠いな」)









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