先生と俺とリヴァイ君


「イテテテっ!!」

「………」

「こら、離しなさい。エレン先生が痛がってるでしょ」

「……フッ」

「…このチビ」

「ちょ、ミカサ!!相手は子供だから…っ、俺は大丈夫だって」

俺は今一人の園児に思いっきり髪を引っ張られている。それもかまってほしさの粋を達した本気の痛さ。軽く引っ張られるなら止めろよ、と笑いながら言えるのだがこればかりは無理だ。毛根が引きちぎられるのではないかってぐらいヤバイ。ミカサが俺の身を案じて注意してくれるも彼は聞く耳など持っておらず。ミカサをちらりと見て鼻で笑うとその手の力を強めた
彼、リヴァイ君はどうしてか出会ったときから俺に激しい暴力じみた事をしてくる男の子。今みたいに髪を引っ張るわ足を蹴ってくるわ、差し出した手を叩き落とすわ様々だ。そんな彼に俺は何度も心が折れそうになったがそれでも仲良くなろうと接している。しかし、俺の思いを知ってか知らずか彼は全くその行為を止めようとしない
ミカサやアルミンにはしないんだけどな…。それどころか彼が二人と話しているところなど見たことがない
元々他人嫌いなのか、周りの園児達ともなれるまで相当の時間がかかった。今は少しだが周りの子供達と話すようにはなっているけどそれでもまだまだだ。何よりも彼の笑顔を誰一人として見たことがない、ある一人を除いては


「…ロード」

「っ!!」

ミカサがポツリと言葉を溢す。その名前を聞いたリヴァイ君は掴む手をそのままにミカサが見ている方向にばっと顔を向ける。どうやらロードは外でハンジ君達と遊んでいたらしく、疲れた顔を隠すことなくパタパタと手で風を仰ぎながら壁を背に腰を床に下ろしていた

「………」

リヴァイ君は先程まで掴んでいた俺の髪を離し、一直線にロードの元へ駆けていく。そう、ロードだけなのだ。リヴァイ君の表情を、雰囲気を和げることが出来る奴は
ロードの前まで行ったリヴァイ君はその足を止め、伺うように彼を見つめる。その視線に気付いたのか、ロードは閉じていた目を開けその瞳にリヴァイ君を捉えるとふっと笑い両手を広げた。その腕の中にリヴァイ君は待ってましたと言わんばかりに飛び込むとロードの胸元に顔を埋め強く抱き付いた

「お前、エレンにもこれぐらい甘えたらどうだ?」

「ロードにだけだ。…あの愚図に甘えるなんてことは一生ない」

「…そうか」

…どうしよう、本当もう立ち直れない。リヴァイ君の素直な一言が辛すぎてその場に踞ってしまう。あんなにはっきりと率直に答えられると言うことはあれがリヴァイ君の本心なのだろう。どんよりした空気にミカサがフォロー入れてくれる声が聞こえるけど今の俺には全く効果がない

「エレンも悪い奴じゃねェんだ。お前もすぐに打ち解けることが出来るさ」

「………知らねェ」

「ったく。もし俺がいなくなったらどうする。お前の頼れる先生はあの三人しかいねェんだ」

「…ロード、居なくなるのか?」

先ほどの俺への勢いはどこへいったのか眉をハの字に下げ不安げな表情を浮かべるリヴァイ君にロードは一瞬うっと言葉をつまらせた後、深く深く溜め息をついた。そう、リヴァイ君が唯一彼に甘えるようにロードも唯一リヴァイ君に弱いのだ
二人とも何処と無く似ているところがあるし実は家族だったりして、なんて。そんな事を考えていると、不意にロードと目が合い慌ててそらそうとするも時すでに遅し。何か企んでいるようなに口を歪ませたロードに軽く手招きされ、渋々彼らに近づいた。行かないということも出来たがそれをした日には明日の朝日は拝めないだろうということなど分かりきっているからここは素直に従う

「なんですか、ロード先生?」

「ほらリヴァイ、エレンが来た。行けよ」

「嫌だ」

「エレン、こいつをどうにかしろ」

「どうにかって…」

どうすればいいんだ。ロードはリヴァイ君に俺のもとへ行けと言っている。多分先ほどの会話から推測して俺に甘えろと言っているのだろう、だが当の本人は一更にロードから離れようとしない、寧ろロードの服を掴む手に力が入っている。いきなりは無理だろうと苦笑しつつ首を横に振るとロードは怪訝そうに顔を歪めながらも諦めた
ここだけの話、リヴァイ君の家庭は幸せな家庭からかけ離れたものらしい。俺も詳しくは知らないが今は両親と離れ母方のおじいさん、おばあさんと暮らしていると聞いた。こんな小さな子の短い年月しかない過去に何があったか知らないがこの子の好きにさせてあげた方がいいのかもしれない。なつかれない身としては悲しいものがあるが、リヴァイ君が喜んでくれるならそれでいい

「…リヴァイ、眠いのか?」

「(コクリ)」

本当ロードの前では素直だよな
小さく船をこぎ始めたリヴァイ君をロードは抱き抱えて立ち上がる。そして、ポンポンと一定のリズムでリヴァイ君の背中を叩いてやること数分、リヴァイ君からは規則正しい寝息が聞こえてきて、その普段の俺への行動からは考えられない程の可愛さに笑った

「ロードの事、大好きだよなリヴァイ君」

「お前らにも頼るようになってもらわねェとな」

「ロードがいる間はいいんじゃないか?俺達へはゆっくり心を開いてくれたら…」

「悪いがそれは無理だ」

「え?」

それは何にたいしての無理なのか分からずもう一度聞き直すと予想外の言葉が返ってきてただ唖然とするしかなかった




(「俺、今週一杯でもうこねェからな。就職先決まったし」)
(「………………」)


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