先生と俺


最近この幼稚園に来た先生がいる。名前はロード・レヴィル先生。先生といってもちゃんとした資格を持っている訳ではなく、人手が足りないこの幼稚園に臨時として来てくれた大学生だ
仏頂面で目付きが悪くて何を考えてるのかも分からない不思議な人。ただ、本人は喜ぶ状況じゃないが何故か園児達になつかれる、…本当、この人は分からない

「珈琲、ここ置いとくな」

「あぁ」

コトリと教科書を広げ、大学の課題をしているロードの机に珈琲の入ったカップを置くと小さく返事をされ俺は少し笑った。会話という会話はあまりしたことないから未だに近寄りがたい人物という印象は変わらないまま必要最低限のやり取りしかしていない
それは同期のミカサやアルミンも同じで。ミカサなんかロードに変な敵意さえ抱いている。どうしたものか、兎に角このままだと場の空気が悪くなるので俺から勇気だしていってみようと思う

「そう言えばロードって大学生だよな。何部に入ってんだ?」

「医学部」

「………」

マジかよ。ノートから目を離すことなく単語だけを言い放ったロードに一人唖然とする。ちらりと教科書を盗み見するとそこには全く理解できない専門用語、俺達一般人が知りもしない病気の説明がずらりと羅列している。医学部何て言ったら他の部よりも忙しいはずなのにどうしてここに臨時として入ってくれたか聞くと暇だからと返ってきた。どうやら彼の脳は俺が想像しているより遥かに賢いようだ。所謂天才か

「ここの近くの大学か?」

「外の。今は休みで此方に帰省してるだけだ」

「ふーん、大変だなお前」

「人手が足りねェ上、給料の安いここで働くより幾分か楽だと思うがな」

「うっ…」

的を射た言葉が心に突き刺さる。確かに彼が言っていることは正しい。この保育園は田舎にあって、皆外に出ていく為か働く人がほとんどいない上に給料だって外の保育園と比べたらずっと安い。それでもここにいるのは子供達の為であって。お金が必要ないとまでは言わないが、子供達の為に俺が役立っているのならばそれでいい、だから今でもここにいる。ここの子供達が好きだから、そう答えるとロードは持っていたペンを置き少し冷えた珈琲に手を伸ばした

「そうじゃねェとこんな所でやっていけねェだろ」

「ははっ、確かにそうだ」

俺の想いを無視せず聞いてくれたこと、そして子供達への想いを受け入れてくれたことに単純にも嬉しくて笑う。するとロードは珈琲に口をつけたあとポツリと言葉を紡いだ

「俺もここの餓鬼共は嫌いじゃねェ」

小さな呟きを俺の耳は瞬時に拾い上げ、脳へと送る。そしてそれをすぐに理解し俺は自分の事のように嬉しくなった。ロードから聞いた本音にも似た言葉、それを嘘だと思わなかったのはその時のロードの表情がいつもより穏やかだったから。こんな顔も出来るんだ
しかし、それも一瞬だけ。いつもの無表情へと変え彼は園児がここに来るまでの時間を課題へ充てるようで、ペンを再び握り目で文を追っていた。そんな彼に小さく頑張れとエールを送り、おれも自分にあてられた仕事に戻った



(彼と話したとミカサやアルミンに言ってみよう)
(きっと驚くはずだから)


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