「おぃロード」
「、どうした」
「お前は寝ないのか?」
「まだ、な」
眠たい目を擦りながらもロードの姿を捉えるために瞼を上げる。この家にはベッドが一つしかないらしく、それを家主のロードはおれに与え、自身は椅子に座り外を眺めていた。何処か遠くを見る瞳。ロードが何を見ているのか、おれには検討もつかなかった
まだたったの一日。出会って一日しかっ経ていないはずなのに不思議と何日も共にいたように感じた。利用してやろうと思っていた感情は鳴りを潜めただロードに甘えたいなんて今までじゃ考えられない願望が頭を支配していて。
甘えたことがない、頼れるものは誰もいない、友達、幼馴染み…両親何もかも両手から溢れてしまった。残ったものは虚しさや悲しみだけ
周りは汚い大人たちばかりで、甘えたいという感情を圧し殺しては代わりに盗みを働き、暴力を振られては涙した。そんな毎日が続くと思っていた最中現れたのがロードで
殺していた感情が、希望が姿を表した。おれはお前に縋ってもいいか?
おれは…自由になってもいいのか?
「…ロード」
「………」
ポツリと呟いた名前はロードに届いていないようで此方を向いてはくれない
窓の外を、正確にはさらに遠くを見詰めては目を細めるロードは何だか一枚の絵みたいで。男なのに見惚れてしまった
眠たい、けど寝たくない
今寝てしまったらこの一日が夢になってしまいそうで怖かった。おれの微かな願いが見せた幻想
そんなの認めたくないから…
「…リヴァイ」
「んー」
「いい加減寝ろ。餓鬼は寝る時間だ」
「イヤダ」
「………」
目をしばつかせながらも起きようとするおれにロードは呆れたような顔で此方を見ると椅子から立ち上がって近づいてきた。するとベッドの脇に座りおれの頭を撫でる。キモチイ
「寝るのがこぇのか?」
「(フルフル)」
「…はぁ、ここにいてやる」
「…本当、か?」
「あぁ。…お前を置いてどっかにいったりしねェよ」
どこにもいかない、隣にいてくれる
その言葉に安堵する。ロードはあいつらとは違う、おれ一人を置き去りにしたあいつらとは…
撫でてくれる手を両手で掴みぐいぐい引き寄せる。これはおれなりの表現。口下手なおれからの頼み
「…………」
「………」
顔をしかめながらおれを睨むロードと睨まれても動じないおれ。ここは譲らない。大人は子供の願いを聞き入れるべきだ。訴えるように目を見詰めるとロードは今日だけだぞと一言言ってベッドに上がった。それが嬉しくてロードに引っ付くと優しい手つきでおれの背中をリズムよく叩いてくれる
「今日一日の変わりようが凄いなリヴァイ。始めはナイフを突き立てては威嚇していたくせによ」
「っ!あれは仕方ねぇだろ。いつもの癖だ、…そういうロードこそ」
変わった
そう口にしようとして開きかけたそれを再び閉ざす。だって、ロードの表情が無くなったから。しかし、それも一瞬でおれもあいつらに感化されたかなんて冗談めかしに呟いていた
なぁ。さっきの表情は一体なんだったんだ?やっぱりおれといるのは嫌なのか?おれはお前にとって…邪魔、でしかないのか?
不安になりロードに抱き着く。しかしながら、その不安はロードがおれを抱き締め返してくれたことによって消え去った
「こうしてやるから、さっさと寝ろ」
「…うん」
ロードに抱き締められながら横になる。すると睡魔はすぐに襲ってきて数分足らずでおれの意識は飛んだ
人の…ロードの温もりに包まれる安心感と喜びに胸踊らせて
次の朝もこの温もりがあると信じながら…
「変わった…か」
先程リヴァイから紡がれた言葉に一瞬動揺した。お前が気づいてる通り、おれは変わった。しかもリヴァイ、お前のせいで、だ
「フフッ、安心しきった顔しやがって」
すやすや気持ちよさげに眠るリヴァイの頬を撫でる
甘えることを知らないリヴァイ。知らなければ知りたくなるのが子供で
その対象がおれとなったようだ
海賊…、犯罪者に甘えるなど笑えない冗談だ。 わかってはいるはずなのに拒めないおれも冗談であってほしかったが
「はぁ、」
明日はあの本棚にある総てを物色しよう。読めるものは片っ端から読んでいこう
そう決めて目を閉じた
(ずっと傍にいてほしい)
(早く…、離れたい)