リヴァイの手をひいて地上へと出るとそこは彼の言った通り壁に囲まれた町だった。この窮屈な世界で人が生活している
云わばここの人間はこの中の世界しか知らないということだ。それも全ては巨人が存在しているから。そいつらから逃れるようにして人は壁を作り、逃げ場のない鳥籠の中で怯えながら生きているという。哀れで情けない
それでも楽しそうに笑っているのは何故なのか。おれには理解し難い
「ロード?」
「……」
くぃくぃと引っ張られそちらに目を向けると不思議そうな顔でおれを見上げるリヴァイ。ふと周りを見渡せば地下街とはまた別の視線に顔をしかめた。自分でも分かっている、これは島に降りたときよくあった視線と一緒だ
「…視線がすごいな」
「は?」
「ロードに向けられる視線だ。道行く女が、皆ロードを見ては頬染めてる」
「日常茶飯事だ」
「………」
興味ない
全ての視線を無視し、町を一周しようと足を進め必要なものは何かと頭を動かす。食材もそうだが、衣類も必要だ。リヴァイのものはいくつか取ってきたがおれは今着ているものしかない
あと二着ぐらいは欲しいものだ
「リヴァイ、これに盗ったものを詰めてこい」
「ん、」
家にあった風呂敷を渡せば頷き、走りさっていった。リヴァイを見送り再び壁の方を仰ぎ見る
高く高く築き上げられた壁の先を見ることは叶わない。自分の脚力を持ってすれば壁より高く飛び上がることは可能だが、ここにそれらしきことを出来る者のはいない。それ故に見られてしまえば王政だというこの世界、怪しまれ牢行きか王のもとでの道具とされるだろう
「巨人…か」
人間の天敵だと言われる存在
グランドラインの島に巨人族という一族がいたはずだがそれと同じと考えてもいいのか
一度は見てみたいものだ
「あの、ど…どんなモノをお探しで?」
一先ず目的を終わらせよう
連なるように建つ店の中から自分に合いそうな服を探していく。店員であろう女が話しかけてくるも買うわけではないので一切耳を傾けないでいた。しかしながら、必死に案内をしようとする声が邪魔くさい
「………」
能力を使えば静まる一帯に苛立ちもおさまり、その間気に入った服を掴み店を出た。盗みに一切の躊躇がないのは自分が"海賊"だからだろう
これでおれの用はすんだ。あとはリヴァイだ。見聞色を使いリヴァイの気配を探ればすぐに見つかった
「もう十分だ、リヴァイ」
「っ!!」
路地裏に隠れるリヴァイの後ろ姿に声をかけると殺気を一心に向けられるも、おれだと分かりホッと息をついた
風呂敷が見るからに大きくなっているところからそれなりの量を奪ってきたのだろう
「帰るぞ」
「ん、」
再び手を取り地下街への道を進む
何を取ってきたのか問うとまた肉が手にはいったんだと嬉しそうに報告してくれた。子供とは純粋で、荒んでいるように思えたリヴァイにも子供らしさがありそれを嬉しく思った
……嬉しく、思う?
不意に過った言葉に口角を下げる
何故おれはこんなにもリヴァイを気にかけている?ただ情報を得るための道具に過ぎないのだろう…、なら何故?
訳のわからぬ世界に飛ばされてからおれは可笑しくなったのだろうか。容赦なく気に入らないものを全て絶ってきた、傲慢、冷酷、残虐。どんな言葉を並べても足りないくらいのことをこの手で殺ってきた
白から赤に、赤から黒に穢れた心で今さら何を思うのか、何を求めているというのか…。優しさを、人として捨てた感情を取り戻そうとする自分を嘲笑った
「リヴァイ」
「?」
「何が食いたい?お前の望むもん、作ってやるよ」
「!本当か!…じゃあ」
楽しそうに何にしようか考える姿
…おれは早く向こうへ帰った方がいいのかもな
過去の自分が否定される前に…
(穢れを知らない手と人の血に染まった手)
(繋がれた二つのそれが一つの陰を作った)