リヴァイと名乗った少年
こんな無法地帯で今まで過ごしてきたためかそこらの子供とは纏う雰囲気が違う。おれは実質上裏路地で気を失っていたこいつを"拾った"
そう、拾ったのだ。拾ったからには最後まで面倒くらいは見てやらないとならない。傷が癒えまともに動けるようになるその時までは、絶対に
「リヴァイ、お前親は?」
「………いねェ」
「そうか」
初めから親がいるとは思ってなどいなかったが。 この様子から見ると殺されたというより捨てられたのだろう
ちらりと顔をみるもその表情には何も映っていない。悲しみも怒りも…
感情的な子供独特の表情からは考えられないただ現実を受け入れているだけの、世界に絶望仕切った後の顔
「歳は?」
「7」
「今までどうやって生活してきた?」
「…食い物は盗んだ。寝場所は適当」
「…ようするにまともな生活を送ってこなかったって訳か」
親に捨てられまともな生活をしていない。普通の善良な人間なら"可哀想だ、君が自分の足で真っ当な人生を歩めるまで面倒をみよう"となるかもしれないが今のおれにそんな余裕はない
こいつからここ一体の情報さえ得ればこの子供とは別れるつもりだ。だが、それはこの子供が何も言わなかった場合、出ていくことを望んだ場合だ
「…おれはその怪我を直すためにお前を拾った。おれの世話はお前の傷が癒えるまでだ」
「……」
ぎゅっとシーツを握る手に力を込めるリヴァイに深く深く吐息した。
今まで周りには干渉しなかった、自分の世界を守って生きてきたはずだった。しかしながら、その世界は少しずつ…気づかぬうちにあいつらによって崩されていたのだろう
小さな笑いが込み上げる。本心とは裏腹に真逆のことをどうして口は紡いでしまうのか、おれには分からなかった
「…だが、おれはお前の意思を受け取ってやる」
「?」
「お前が出たいと望めば勝手に出ていっていい、お前がここにいたいと望むならば…」
ーーおれはおれがここに存在する限りお前の面倒をみてやる
視線が絡み合う
戸惑いと驚きに満ちたその瞳がおれを捉えてはなさない。どちらでもいい、どう転ぼうが問題ない
唖然としたするリヴァイからの言葉を椅子に座りながら待つ
「…お前は何でそこまでおれに構う」
「なんだ、余計なお世話か?」
「……いや。……邪魔じゃねぇのか、おれみたいな何もできない、餓鬼がいて 」
「言っただろ。お前が気にかけることはなにもない。これはただの気紛れだと」
「………」
後はこいつの問題。他人に頼ることを恐れ今までの生活に戻るか、小さな小さなプライドを捨て違う世界で歩んでいくか。それを決めるのはリヴァイだ。おれはただ匙を投げてやっただけにすぎない。随分麦わら達に考え方も侵されてきた自分に苛立ちを感じた
「……いる」
「ん?」
「あんたの…、世話になる」
意を決したような鈍く光る瞳に口角を上げる。がたりと音をたて椅子から立ち上がりリヴァイの方へと近づきその頭に手を置いた。怪訝そうに眉が寄せられたが気づかないふりをする
「それでいいんだな」
「……あぁ」
「分かった。…なら寝ろ。おれはお前が起きるまでここで待っててやる」
頭を一撫でしゆっくりと身体を寝かせる。すると相当無理していたようでうつらうつらとしていたリヴァイからはすぐに規則正しい寝息が聞こえていた
部屋の中は静まりかえる。しかし、外の世界は別でざわざわと騒ぎ立て時折悲鳴じみたものさえ聞こえてくる
五月蝿い、その一言につきる。黙らしてこようかしかしここを離れるわけにはいかない。そこでふと思い起こすのは己の能力
「…………」
ーーいや、まさか
しかし、試す価値は十分ある。駄目ならそれで諦めればいい。そんな思いでゆっくりと口を開いた
「……、"TIME"」
半信半疑
しかしながら感じるいつもの心地よさに目を見開いた
「……"ストップ"」
ピタリ
先程まで騒がしかった外が一変音すらも感じられないほど静まりかえる
ふっと窓越しに見た外の世界は誰ひとりとして動いているものはいなかった
「………」
嬉しい誤算とはまさにこの事だ
だが、能力が使えるからといって別段解決策が見付かるわけではないし、道が開けたわけではない。しかしながら、自分と彼方の世界とのリンクを感じられ少なからず安堵したことは確かであった
(全てが閉ざされたわけではない)
(絶望でしかないかもしれない希望を抱いてみようと思った)