少し埃の被ったシーツを退け連れてきた餓鬼をベッドへと寝かせるといつも持ち歩いている医療道具を取りだし丁寧に治療を施す。傷まみれの身体。大して驚きはしない、ここがどれだけ治安が悪いのかぐらいは考えずとも理解できた
すやすや眠っている餓鬼をそのままに先程作った料理を口に運ぶ。あの餓鬼には悪いがおれも腹が減ってる、あのコックの飯を食べ損ねたから
「……はぁ」
数日分の疲労を一日で享受したように身体が酷く重くだるい。何が起こるか分からないのがグランドライン。理解してはいたがこの現実は些か受け入れがたい
咀嚼し、口の中のものが喉を通ったその時鼻の先を鋭い何かがかすり壁へと刺さった
「随分な挨拶だな」
「………」
手にしていたフォークを置き、ちらりと殺気を放つ者へと視線を向ける。餓鬼だとは思えない殺伐としたものを纏うそいつは動くことなくじっとこちらをに睨み続ける。面倒なものを拾ってきた、が今更後悔しても遅い
腰を上げ、餓鬼がいるベッドへと近づく。その度に警戒を強めているようだが気にも止めず手を伸ばした
「………っ」
「傷口から菌が入ったか、熱がある。傷も浅かったが完治するまでは寝てろ」
額に触れると平均体温より高い熱を感じる。冷やすものはなにもない
取り合えず寝るだけ寝てもらおうと肩を押そうとするもそれは餓鬼の手によって静止させられた
「…なんだ」
「お前…、どうしておれを助けた?」
純粋な疑問なんだろう。刺さる殺気の中に少しの動揺が垣間見え、ふっと口角をあげる。どうして。そんなことおれにも分からない、聞きたいのはこっちだ
互いの視線が交わるなか思いついたことを口にした
「気まぐれだ」
「き、まぐ…れ?」
「あぁ。おれの気紛れでお前を助けた。理由なんてそれだけだ。分かったならこれ食ってさっさと寝ろ。そこまでの熱じゃねェから食欲はあるだろ」
目を白黒させ戸惑う餓鬼を他所に作っておいたもうひとつの皿を差し出す。毒など入っていないと見せるように一口食えば恐る恐ると口にし歪めていた顔を綻ばした
次から次へと料理を口に運ぶ餓鬼を横目にこれからのことを考える。ある島に飛ばされたという仮説を立ててはみたものの外へ出た瞬間意味のないものへと変わってしまった。日の光がないのだ。普通なら有り得ないことに表情へは出さなかったものの焦燥感にかられてしまった。何せ何も変わらないいつもと同じ昼間だったのだから
「…美味かった」
「……あぁ」
ぼそりと呟くように述べられた礼の言葉と綺麗になった皿を受け取り重い腰を上げる。これからどうこうどうしていくべきか考える必要があると頭で考えていると不意に引っ張られる感覚に眉を潜める
まだ何かあるのか、餓鬼の方へと振り返り目で訴えると顔を伏せ黙り混んだ
「……」
「……ぇ、」
「?」
「お前の名前、知らねェ」
「知る必要はねェだろ」
「………」
ふるふると首を左右に振り、服の端を掴む手をさらに強めるこいつに少しぐらいはと許してしまう自分がいる。他人と馴れ合うつもりはない、が今のおれには情報が乏しすぎる。こいつを通して知ることもありなのかもしれない
「…ロードだ」
「ロード?」
「あぁ。お前は?名ぐらいあるだろ」
おれがここにいる意味など分からない、分からなくてもいい。あの青白い光の正体を突き止めもとに戻りさえすれば理由などいらない
再びグランドラインに戻れるのならどんなものも思いも利用してやろう
それが餓鬼であろうとも…
海賊としての生き方がこの身にこびりついて離れない限り
(「おれは…リヴァイ」)
(じっと睨み付ける眼が過去の自分と重なった)