「なぁ、誕生日ってなんだ?」
唐突すぎるその質問に読んでいた本から顔を上げ向かいに大人しく座っているリヴァイへ視線を移す。何を思ってそれを口にしたのか理解しがたい上にそれすらも知らないという事実に多少の驚きを滲ませながら飲みかけの珈琲を一気に喉へと流し込み一息つく。教えてやる義理もない、しかし知らないことを学ぶのはいいことだと、無知の子供にはそういったことも必要なのだと首を傾げるリヴァイに気ダルげに口を開いた
「…その人が生まれた日を一年おきに祝う日のことだ」
「それをして意味があるのか?」
「さぁな。生まれてくれたことへの感謝をする日らしいが…、必要はねェだろ」
他人に感謝されたところで何かが変わるわけではないがかといって悪いものでもないことは確かで。今は麦わらの船に居るが、ローのところへ仲間として入ってからクルーの、そして俺自身の誕生日は必ず皆で祝っていた。そしてそれは今でも続いている。その度に豪勢な飯を食って、ばか騒ぎして、各々が用意した贈り物を貰って…、意味がないと思うわりにはそれなりに楽しんでいた気がしたのは思い違いではなくて。随分昔のことのように思えるその日々に自然と笑みを溢してしまっていた
「それで。何処でその言葉を聞いた?」
「…今日地上に出たときにすれ違った親子が話してた。誕生日だから好きなの買ってあげるって」
「………、」
「俺、誕生日なんて分かんねェから」
何処か悲しげに歪められるその顔に可哀想だなんて言葉が頭を過ったことに気付かない振りをする。周りの人間にはあるのに自分は持っていない。持っていないモノを欲しがるのが子供という生き物で、それでもこいつはおれに迷惑をかけさせまいと一瞬見せたその表情をいつものそれへと戻し誕生日の話題に触れようとはしなかった
誕生日を知らないということは親がこいつに何一つ教えなかったのだろう。いや、教える前に捨てられてしまったのか。どちらにしろ"生まれたことへの感謝をされる"日がリヴァイにはないということで。滅多に欲しいものをねだらない、子供らしさを見せないマセ餓鬼から垣間見えた本心を汲み取ってやらないわけにはいかないだろうとなけなしの良心をかき集めリヴァイの頭に手を乗せ撫でてやる
「なら今日にするか?」
「え、」
「日付は12月25日。俺の生まれた日と同じ月日だ」
地上で見つけた日付を告げながら、自身も作り上げた誕生日の日付を頭に刻む。向こうの世界と時の流れが異なる世界だ。年は知らないが日時で行くと丁度2、3ヶ月くらいのズレがあったことは把握している。つまり、流れが変わってなければ近々向こうじゃ俺の誕生日だった訳で。だからといって何かするわけでもなく今日も年を食ったななんて年より臭いことだけを考えていた
誕生日なんて、決まった日にする必要はない。知らないのなら与えてやればいい、それを与えられた日こそがその瞬間からリヴァイの誕生日となるのだから
「…ロードと、一緒?」
「あぁ。不満か?」
「っ、違う!!…ただ、嬉しくて」
少し頬を紅潮させ目を輝かせて嬉しそうに笑うリヴァイに俺は目を細めつられるようにくつりと笑みを溢す
こんなにも子供らしい反応を見たのはいつ以来だろう。大して経ていない年月と言えどリヴァイのこんな表情は数えるほどしかない、ほんの数回だけ。ならば今日はそんな子供らしいリヴァイに付き合ってやろうと重たい腰を上げリヴァイの隣に座る
すると見かねたように俺に手を伸ばしてくるリヴァイを抱え膝の上に乗せると照れ臭そうに笑った
「何か欲しい物でもあるか?リヴァイ」
「…そういうロードは?今日はロードの誕生日でもあるんだろ?」
「俺はいい。まずはお前のからだ 」
「…うーん」
目を閉ざし考え始めるリヴァイをじっと見据える。いざ言われてみると欲しいものなど直ぐに浮かばないのは仕方のないこと。それに俺がこいつにしてやれることなど限られている
何を要求してくるのだろう、ただリヴァイが口を開くのを待った
「何もいらねェ」
「は?」
「何も買わなくていい。だから…」
だから。その言葉の続きはリヴァイが俺の胸に顔を埋めたことで声になることはなかった。つまり、今リヴァイの欲しいものはモノではなくそういったことなのだと納得し答えるようにその小さな身体を包んだ
「欲のねェ餓鬼だな」
「…ロードが隣にいてくれたらそれだけでいい。それ以上に欲しいものなんてねェからな!!だから、今日一日こうしててくれるか?」
「…今日だけ特別だ」
「あぁっ!!」
ただの気紛れで与えたその日がこれから、こいつの記念日の1つとなる。それが良いことかそうでないのかは分からないが今のこいつが喜んでくれているのならと理由を付け、喜ぶ子供を優しく抱き締めた
(誕生日は貴方が与えてくれた特別な日)
(だからこそ、一番大切な時間なんだ)