貴方が隣にいてくれるから

暗闇の中、子供が一人見知った男に殴られているのを他人事のように感じながら茫然と見つめていた。この光景をおれは知っている。少しは前の記憶、ロードに出会う前孤独になる前のおれ
暴動罵倒を繰り返されては、放られる。助けを差しのべてくれる手は一切なくて…、反抗すればまた殴られ身体はボロボロになっていた
男が去ったあと、子供ははりつめた糸が切れたようにその瞳から多量の涙を止めることなく流し続けた。勿論拭ってくれる人などいるはずもなく、ただおれは"おれ"を見詰めることしかでしなくて。おれは必要とされているのか、ふと過った思いは暗闇の中に零れ消えた

身体がピクリと引きつり、目を開けるとそこは暗闇でもなく見知った天井。そして、おれの大好きな人が隣にいて…、その指がおれの頬ヘ伸ばされていて。それだけで沈んでいた心が暖かくなる気がした

「ロード」

「魘されていた。…飲め」

上半身を起こされた後、すっと差し出されたのはホットミルク。おれの為に作ってくれたんだ、ロードの些細な優しさが暖かくて頬が緩んだ。カップを受け取り一口含むと早く脈打っていた鼓動がおさまっていくのが分かった

「………」

先程の夢がちらつき無意識に身体が震えるがそれを止めるすべをおれは知らない。忘れようとしていたのに、漸く忘れていたと思ったのに…
よっぽど傷が深かったのだろう、見えない内の消えることのない痛手が今になって再び襲ってくる感覚に目頭が熱くなった気がした

「お前、稀に見るほど面倒な餓鬼だな」

「………」

呆れたようにボソリと呟くロードの言葉に顔を上げることが出来ない。じっと黙っていると手に持っていたカップが取られ横にある机に置かれると変わりに全身が暖かい何かに包まれた

「……っ」

「餓鬼は餓鬼らしくしとけばいい。何も抑える必要はねェよ」

あやすように緩慢な動作で頭を撫でるロードの手は優しくて、抱き締めてくれる腕は普段のロードから感じられないほど暖かい。温もりを感じると同時におれの中でなにかが弾けたと思った刹那、頬に涙が伝った
人前で泣くのが恥ずかしくて、声を押し殺すおれにロードは鼻で笑いながらも丁寧な手つき涙を拭ってくれる。誰かに涙を拭ってもらうのはこれが初めてで。その優しさにさらに涙が零れた

「お、れ…」

「………」

「こん、なに…っ優しく、されたのっ…は、じめて…でっ」

「フフッ。今は我慢しなくていい、泣きたいだけ泣け。お前を苦しめたものは、ここにはいねェだろ」

「うっ、あ、あっ、っ…ふっぅ」

壊れたように泣き出すおれをロードは服が汚れることなど関係なく抱き締めてくれる。それからロードはおれが泣き止むまで大丈夫だと宥めるようにことばを掛けてくれて、おれはただ耳を傾けた。だんだん落ち着いてきたころ、それでもロードの柔らかい拘束は解かれることなく、おれはその行為に素直に甘え、しばらくの間その温もりに浸った

「 」

無意識に呟いた言葉に目を閉じる。睡魔に負けつつあったから何をいったか自分でもわからない。ただ、ずっと居られるそう信じて疑わずロードに身をあずけたことだけは分かった

(「ずっと、隣に…」)
(無意識に紡がれた願い)
(それを聞いたロードの瞳が揺らいだことに気が付かなかった)



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