「………」
「………」
静寂が空間の一帯を支配する。今のおれがリヴァイにしてやれるのは外傷の手当てな訳で。リヴァイの額に出来た傷も首筋に拵えた切り傷も元を辿れば全ておれが原因だったりする
"一緒にいさせてください"
なかなか人に下から頼み事をしない奴が始めて不安を隠すことなく打ち明けた。驚きと安堵、全く違う感情がおれの中に渦巻いたのはその時が始めてだった
「…ロード」
「ん?」
「お前は…怪我、してないのか?」
今だ血にまみれた服を着ているおれを気遣ってか、おれはもう大丈夫だからと逆に包帯をおれに押し当ててくる。…変な勘違いをしている。こいつはあの一部始終を見ていたわけで、どこでおれが傷を作る要素があったと思ったのか。おれが手当てしてやる!と意気込むリヴァイの頭を撫で必要ないと告げた
「?だって、血塗れだし…」
「これは返り血だ。おれのじゃねェ」
だから心配する必要はない。ただこのままこれを着続けると服に返り血が染みを作るのは目に見えている。さっさと着替えよう
そう決めてからの行動は早く、すぐに服を脱ぎ捨てては上を羽織ることなどせず、脱衣場へと向かった。することは一つ、この汚ねェ血を落とすこと
盗ってきた洗剤(漂白剤入り)で丁寧に汚れを落としていく
流石王都の周りの町と言ったところ、上等なものを揃えてる。あっという間に服は元通りの色へと変わり、そのまま洗濯機へ放り込んだ
今日はこのまま寝ようか
シャワーを浴びることさえ面倒だ。用を済ませリヴァイの元へと戻るとそこには目を光らせおれをじっと見詰めるリヴァイの姿
「どうした?」
「…ロード、腹筋すげェー」
「…………」
何をいうかと思えば、くだらねェ
リヴァイへ近付き伸ばしてくる手をとってやりながらもその額へと指を弾いた。所謂デコピンというやつだ
「っ!いってェ!!」
「んなことどうでもいい。さっさと寝ろ」
暗い雰囲気は何処へ行ったのやら、額を押さえて踞るリヴァイを見下ろし鼻で笑った。それが気に食わなかったのか餓鬼ながらも少しは迫力の感じられる目で睨んでくる、がおれには通用などしない
笑みを深め、椅子に座る。そして、星空の見えない外へと視線をやった
「………」
「…ロード」
名を呼ばれちらりと視線を外からリヴァイの方へと戻せば、コイツが時おり見せる何色にも染まらぬ強さを放つ瞳が向けられていて。普段の戯れを忘れて、まるで人が変わったようにがらりと印象の変えるその瞳。これは始めてコイツとあったときと同じもので、獲物を貫くようなその切れ味の鋭さに目を細めた
「おれを、強くしてくれ」
「…理由は?」
「…もう、嫌なんだ。やられるだけのおれも、抵抗できないおれも、…ロードに、ロードに頼るだけのおれが嫌で。悔しい」
「………」
「だから、自分の事を護れるように。一人で生きていけるように…」
ぎらりと輝く双眸。決意の感じられるそれに瞳を閉じた
「…分かった」
「っ!じゃあ!」
「教えてやるよ、お前に。その傷が癒えたら、な。わかったらさっさと寝て傷を癒せ」
寝るだけじゃ無理だが。しかし、そんなおれの考えなど裏腹に素直なリヴァイはシーツを被り寝る姿勢をとった。…相変わらずの単純なやつだ
静かになった室内。ふっと己の手を見詰めると一瞬手が透けて見えた気がした
「……っ…」
さっきのは何だったんだ。もう一度じっくり見てみるも変わったところなど見当たらない自分の掌。もしかしたら…、一つの仮説が頭を過る
そろそろなのかもしれない、リヴァイを置いて向こうに戻る日は…。
…もし、おれが今向こうに帰ると残されたリヴァイはどうのだろうか。捨てられたと、おれを憎むのか、それとも嘆くのか。…あいつはこれから一生ここで無事に生活していけるだろうか
「………」
思わずそんな心配をした自分にはっとして我に変えるも大して驚きはしない。だが、日に日に近づく別れを惜しむ自分がいることだけは認めることが出来なかった
(近付くタイムリミット)
(それまでお前の好きにさせてやろう)
(全てが叶ったとき、それが本当の別れ)