拒絶の裏に潜む愛

最近ローさんの様子がおかしい
おれと目を合わせようともしてくれないし、彼からのスキンシップはぱたりとなりを潜めた。挙げ句に二人きりの部屋で触れようとしたときなんか"おれに触るな"と真顔で言われた
何をした?おれは一体彼に拒絶されるほどの何かをしてしまったのか
過去のことを思い返してみるが原因となる行為は一つも出てこないから困ったものだ。…おれ、本気で嫌われちゃったかもどうしよ
船縁に寄りかかり太陽の光によってきらりと輝く海を眺めながら肩を落とす

「最近船長とうまくいってないようだな。何かあったのか?」

「ペンギンさん」

声のした方をちらりと見る、そこには怪訝そうな顔をしたペンギンさん。ペンギンさんは周りの空気に敏感でおれとローさんの間で何かあったとき、唯一彼だけがすぐに気づいてこうしておれに声をかけてくれる。恐らくローさんだと無言で済まされてしまうからだろう。そして、おれの落胆ようが目に見えて酷いから

取り合えずペンギンさんにも聞いてみよう、おれ一人では解決できない。今日何度吐いたか分からない溜め息をもう一度つき口を開いた

「…成る程な。確かに最近のお前達は決して仲がいいとは言えないな。寧ろその逆だ」

「ですよね」

「だが、原因はおれにも分からない。すまないな」

「いや、いいんですよ。話聞いてくれただけでも気が少し楽になりましたし」

困ったように目を伏せるペンギンさんに大丈夫だと笑って見せる。多分原因なんて本人達にしか分からない。やはり仲を戻すにはローさんに直接聞くしかないのだろうか

「船長に話してきたらどうだ」

「……そうします」

「あぁ、それと…」

「?」

もし船長がお前のことを本気で拒むというならこう言えばいい。それで頷こうならおれが行ってやるさ

口角を上げて笑うペンギンさん。いつものクールさはどこにいったのやら、今の彼は心配というよりこの状況を楽しんでいるようだ。今この船におれの悩みを真剣に聞いてくれる人はいなさそうだ

じゃあ行ってきます、とペンギンさんに軽く頭を下げてローさんがいるであろう船長室へと向かう。
今思えばローさんは何にも囚われない性格をしている。気付いたらおれの隣にいて、いつのまにか居なくなって、そしてしばらくたったらまた戻ってくる。今回もただの暇潰しだといいんだけど…

「入りますね」

一声かけて扉を開ける。中には机に座って何かの書類とにらめっこしているローさんの姿。いつもと同じ風景、いつもと同じ空間。その中でひとつ違うことは彼の双眸がおれを映していないことぐらいか。会話のないしんと静まり返った室内に引っ掻き回された心臓の鼓動だけがやけに煩い。
ただ聞くだけだってのにそれすらも怖いのだろうか。とことんおれは落ちぶれてしまったみたいだ、そんな自分が情けなくなる。
真意を聞くだけ、強く噛んでいた唇をほどきこちらを一向に見向きもしないローさんの背に言葉を投げ掛けた

「ローさん。おれ何かしましたか?最近…その、素っ気ないというかおれへの態度が冷たいというか」

「………」

「……あの、」

「…………」

「……」

ローさんからの言葉は何もない。代わりにかさりと紙の刷れる音だけが響き渡る。怒っているわけではなさそう、呆れているわけでも。ただおれと言う存在を自分の視界から外している、居ないものとされているような無機質さに柄にもなく泣きそうになる
知りたいのに知ることができない。
ここで大きく声を上げたら逆効果だろう、吐き出せない苛立ちに堪らず彼に近付く
そして、ローさんの肩に触れようとした、けど

「…触れるな、と言ったはずだ」

「……っ、」

漸く聞けた声は残酷で
おれの手は彼の肩に触れることなくピタリととまった。予想はしていた、していたけどそれを実際にローさんの口から紡がれると流石のおれも参る。何処からこんなになったのか。分からないことがもどかしい

「…どうして、」

「………」

明らかな拒絶。それが苦しくて…締め付けられるような感覚に目を閉じ震える唇から小さく息を吐いた
後で話聞かせろよ、と楽しげに笑ったペンギンさんの顔が鮮明に浮かび上がる

「…おれ、実はペンギンさんのことが好きだったんです」

「……」

「そのことをペンギンさんに伝えたらおれもだって言ってくれました」

「……っ」

「おれ、今のローさんが分からない。だから、貴方を自由にします」

ローさんが微かに息を飲んだのが分かった。この台詞は全てペンギンさんが考えたもの、こう言ったら面白いことになるから試してみろと
自由にする=別れる。繋げたつもりだったが分かってもらえただろうか
あとはこのまま部屋を出たら終わりだ。この演技も関係も 。閉められた扉のドアノブへと手を伸ばしたとき、背中に人の温もりを感じた

「行くな」

それは勿論ローさんしかいない。先程までの冷たい態度はなんだったのか、背中に抱き付き前に回された腕はおれを離さまいと力が籠る。驚いてローさんを見るがどんな表情をしているかは分からない

「行くな、行くんじゃねェ。おれの隣にいると言っただろ」

「それを拒んだのはローさんじゃないですか」

「あれは…っ」

「?」

言葉を詰まらせるローさん。あれは、何なのだろう、じっと次の言葉を待っていると観念したようにぽつりぽつりと少しずつだが話してくれた

「アルスはツンデレってやつが好きだと聞いて、お前が好きならとやってみた」

「へ?」

「話しもしなし触れもしない。アルスの為ならとそんな日々に耐えてたがもう無理だ。挙げ句にお前はおれの苦労なんざ知らずペンギンが好きだとか抜かしやがって」

「………」

ツンデレ?え、え?
頭が混乱して状況に付いていけない。……
話を纏めると今までのローさんの冷たい態度ってのはツンデレのツンの部分だったわけで、そしてそれはおれが"ツンデレ好きだ"という誤情報からの行為だったと。つまり、おれの為?

「アルスアルスアルスアルス」

「あの…、ローさん」

「ん?」

「おれ、別にツンデレ好きって訳じゃないですよ」

「………は?」

首だけ振り返りローさんにそう告げると意味分からないというようにポカンとしていた。確かにツンデレは可愛いなと思ってはいるが決して好きなわけではない

「…じゃあ今までのは何だったんだ。おれが耐えに耐えた努力が水の泡だ」

ぼそりと消え入りそうな声で呟いた彼の顔は今頃羞恥で真っ赤に染まっていることだろう。逆におれは安心した
嫌われた訳じゃなかったんだ
ツンデレになっていなかったような気がしたが、ローさんなりにおれを喜ばせようとしたことだし今回はよしとしとこう

「アルス、今日は一秒たりともおれの傍から離れるな」

「分かってますよ」

「絶対だ」

「はい」

念を押すように何度も確認をとってからするりと背中に刷りよってくるローさんに微笑みを浮かべる。誰が誤情報を彼に与えたのか…
見付けたら一度海に落ちてもらおう


((ゾクッ)…っ!!)
(ん?どうしたのシャチ?)
(いや…、寒気が)
(??)


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