ジンでありジンではないと謳うルシフェルの言葉を頭で処理できない俺のことなど御構い無し。行こうか主、柔らかなだが有無を言わせない声音に逆らうことはできないし、する気もない。
地から足が浮遊する独特な感覚。これからどうなるかなんて誰にも、そして俺自身予想の出来ないことではあるけれどしかし、ただ1つ確かなことがあるとするのなら。おそらく俺が何らかの対処を行わなければ呆気なく人生に終止符を打つということくらい。何故ならば、息の出来ない水の中、僅かな光しか届かない場所にいるから。

「……っ、」

聞いてない、冗談じゃないと最早喚いてる場合ではない。肺に残った酸素は脳を動かすだけで少しずつ消費されていく、人生のピリオドも時間の問題だ。水面までどれ程の距離があるか分からないが俺は死ぬわけにはいかない、その一心でひたすら水を掻き分け無我夢中で陽の差す元へと昇った。

:
:


「……っ、は、ぁ…けほっ」


求めていた酸素が瞬間に肺を満たし、数度咳き込んだ。生きていることが不思議で仕方ないなんて、ぼんやりとした頭で状況を判断する中此処は何処なのか、何故こんな目に合わないといけないのか、ルシフェルに対する不満が湧き上がってくる。恨めしげに彼の六芒星が刻まれた指輪を睨むが何も反応がないあたり、全て彼の思い通りなのだと受け入れるしかなかった。

「おい、そんなところで何してるんだあんた」

不意に掛けられた声に顔を上げると舟の上で訝しむ様に俺を見下す2つの目。まともな思考を取り戻しつつある中、自身の置かれている状況を確認しようと辺りを見渡す。一帯を包む大海原、澄んだ空の青、何処からか聞こえる人の声。どうやら俺は島に近い場所で溺死するところだったようだ、笑えない。

「悪いが助けちゃくれないか?」

助けを求め伸ばした手は顔を顰め、しかし拒む事なく掴まれ身体を引き上げられる。すまない助かった、礼を述べるも別に何もしちゃあいない、なんて鼻で笑われ、青年は昼寝をしていたのかもう一度舟にその身を横たえた。彼が昼寝を再開した中、助けられた俺は特にする事もなく青年を観察する。陽に照らされ輝く金糸、筋肉質な体、これといった特徴はない普通の青年だ。

「………」

じっと青年を眺めていると俺の視線に耐えられないのか鬱陶しいのか、横たえた身体を起こし整った顔を歪めた。

「俺に何かに用か」

「…いや、そういうわけじゃねぇさ。ただ名前を聞いとこうと思ってな」

行く当ても頼れる人もいないのだ。この
出会いを大切にしておかないと後で後悔するだろう。だから、そう。繋ぎ留めておかなければ。彼を利用するわけではない、俺自身彼に僅かながら興味が湧いたのだから

「……レイリー」

「レイリーか、俺はルイフス。しがない旅人だ」

これから世話になる、よろしくな。笑いながら紡いだ言葉。運命がどう転ぼうが知った事ではない。ルシフェルが勝手に連れてきたんだ、ならばどう生きるかは俺が勝手に決めさせてもらうからな。

(「何が世話になるだ、出て行け」)
(「嫌だ!俺は世話になると決めたんだ、意思は変えねぇからな!」)
(「1人で勝手に決めるな!」)






back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -