09



アリババ君とモルジアナに俺たちの敵が他国を侵略し力を得ている国・煌帝国、その力の源となるマギ・ジュダルの存在。彼らがこの国、バルバッドを手中に収める為謀略を巡らせ、アブマド王がまんまと絡め取られてしまったことを教え、その後アリババ君個人に王になり国を纏めるべきだと伝えたが、彼は王になる気は無く、寧ろ買い被りだと言った。俺は正直まだ彼にあまり期待できないと思っている。自信もない、実力も度胸もない。何をそこまで怯える必要があるのだろうか。王族の血という欲しくても得ることのできないものを生まれながらにして持っているというのに

”彼を、彼の本質を見てやれ”

兄さんはアリババ君の何に惹かれ、彼に期待しているのだろうか。あの人が理由も無く助言をすることなど無いと分かっていても疑わずにはいられない。それ程、俺はアリババ君を信じていないということ。

「はぁ…」

嫌になる。そろそろ女性に囲まれながら酒を浴びる程飲みたいものだ。情けない思考に陥るのもしっかり休めていないからか

「先ほどから浮かない顔をしてどうしたんです?」
「いや…、兄さんが何故アリババ君に期待しているのか分からないんだ。今のアリババ君は…言っちゃあ悪いが王族で迷宮攻略者であろうがただの子供だろう。だが、そんな彼にサブマドもモルジアナも、国の民も果てには兄さんまで期待している。分かったように俺は彼らがアリババ君の役目を感じ取っているからだとか言ったが…なぁ」
「貴方自身よくわかっていないんですね」
「うるせぇ。俺だって人を見る目くらい多少はあると思ってる。だから嫌なんだ、彼に期待できない自分が」

重い溜息が一つや二つと溢れてしまうのは仕方ない。自分の思い通りにいかないことの上で動くのは些かやり辛いのである。そんな俺を見たジャーファルも同じように溜息を吐きながらすいっと視線をずらす。追いかけるようにして同じように視線を向けると霧の団の人間と言葉を交わしている兄さんがいて、もう一度兄さんに言われた言葉を思い起こしてしまった

「ならば、ルイフス様に直接聞けばいいじゃないですか。貴方とルイフス様は血の繋がった家族。貴方の悩みの答えを教えてくれるのでは?」
「兄さんは放任主義だからな。どうして、なぜと思ったことは自分で答えまで辿りつけと言うさ。昔からそうだ」

だから今回も俺が正答を見つけなきゃいけない。そう結論付けついでにジャーファルにアリババ君との話し合いの結果を伝える、自身をなくしていること、快い返事をもらえなかったこと。そうですかと眉を顰めたジャーファルにこれからのことを伝えようとした時、

「シンドバッドさん!」

堂々とした声で名を呼び、決心を固めたような瞳で俺を捕らえたアリババ君は昨日の後ろ向きで自身を卑下する彼では無く、国を思う王子そのものになっていた。あまりの変わりように驚きはしたものの

「俺に、「ジン」の使い方を教えてください…」

迷いを振り払った意志に

「力が必要なんだ」

瞳の奥で輝きを放つ決意に

「この国を守るために!」

なんと無く兄さんが言っていた言葉の意味がわかったような気がした



:
:
:

それからというもの俺はアリババ君についてジンの使い方を一からは教え込む。彼はジンを発動することが出来ても力の制御が出来ておらず注いだ魔力は紅蓮の炎の柱になり宙への登っていくがそれではジン本来の力を引き出せたことにはならない。全身魔装が出来なくてもせめて武器化魔装まではと考え教えてはいるがやはり、簡単ではないようだ。幾度と無く試していると大分自身に魔力を収束させられるようにはなってきた。

「アリババ君、迷いがなくなったな」
「あぁ、兄さんの言った通りだ。彼の本質は俺たちが思っている以上なのかもしれない」
「…まぁ、まだまだだかな」

広場での特訓を見ていたのだろう、兄さんが水やタオルを持ってアリババ君を見ながら言葉を紡ぐ。一晩で何がアリババ君を変えたのかは分からないが結果彼を良い方向へと導いたことには感謝している。あとは彼が魔装を身につけさえすればこの国を救う為の手段が揃う

「はーっ、はーっ」
「…魔力が尽きたか。…君も知っているだろうが、ジンの金属器は溜めてある魔力が尽きると何もできなくなる。残量に注意しろ」
「はい……」

体内の魔力が尽きてしまうとジンの能力は使えなくなり、戦いにおいて一瞬で不利な状態になってしまう。だからこそ、魔力の残量を考えながら戦わなくてはならない。

「魔力をまた溜めるにはどうしたら良いんですか?」
「君が体力を回復させ、金属器を身につけていれば数時間ほどでたまる」
「戦いの最中に切れたらどうするんですか…!?」
「それは確かに危機だが、他にも魔力を溜める方法がないわけでもない。その方法は…」
「自然界に存在する炎や水を糧にすればいい。この自然界も元をたどれば同じルフで構成されている。そこから力を得れば一瞬だけだが魔力がたまるんじゃないのか?」
「あぁ、兄さんの言ったように自然界に存在する物質を糧にす、れ…ば」

あれ。なぜ兄さんがそんな事を知っている?ばっと兄さんを見ればニコニコと笑いながら「だろ?」と聞かれ反射的にそうだと伝えたがそうじゃない!問題はそこじゃないんだ兄さん!

「ルイフスさんも、シンドバッドさんと同じ迷宮攻略者なんですか?」

アリババ君、よく聞いてくれた!その問いかけに兄さんはきょとんと首を傾げた後言ってなかったか?と返す。本人としては俺たちが知っているものと思っていたようだが知らん!初めて聞いたぞ!…ということは、俺たちは兄弟で迷宮攻略者なのか。その事実に込み上げてきた興奮を抑え兄さんの手を取った

「何でその事を教えてくれなかったんだ!」
「いや…、別に話さなくても問題はないからな。お前にも聞かれなかったし」
「まさか、兄さんまで迷宮攻略者だとは思わないだろう。…兄さんも死の魔境と言われた迷宮を攻略したんだな、ならばジンの金属器も…」
「あぁ、持っている」

そうして見せてくれた懐刀には確かに八芒星がくっきりと刻まれていた。兄も俺同様ジンから王に選ばれたという事実に弟として誇らしかった。何でもないように言ってみせる兄だがジンは人を選ぶと言われている。然るべき者にしか力を与えない精霊に選ばれたことこそが類い稀な才能を持つ証となる。興奮冷めやらぬ俺の頭をポンと撫で、兄さんはアリババ君に向かい合った

「自然界から得ると言ってもその規模の大きさで魔力のたまる量はまちまち。アリババ君はシンの様に規格外の魔力があるわけじゃあない。無闇に魔力を使い続けないことだ」
「っはい!」

まだまだ聞きたいことは山ほどあるが今はアリババ君の魔装をどうにかしなければ。俺の考えを汲み取った兄がまた後で話してやるからなと優しく呟くものだから嬉しくなり笑って頷いた。アリババ君にも一声かけた兄はそのまま建物の中へと消え、俺たちは魔装を纏う練習を再開した。




(ルイフスさんも迷宮攻略者だったんですね。兄弟揃ってってすごいです!)
(俺も驚いたさ。なんせ、あの人については知らないことが多すぎる…)
(…兄弟なのに、ですか?)
(兄弟だから、だ。君と同じだよ。…よし、練習再開だ。魔装を習得してもらうぞ)
(お願いします!)

/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -