05 立体機動装置とは、人間という二次元的な動きをする生物を三次元に適応させるための過酷なものである 本で読んだ簡単な説明を頭で復唱し今行われている適性試験というものに集中する。新兵がいくつかの列を作り順番を待つ中、呼ばれたものは単純にベルトに二つの紐を括り腕など一切使わずぶら下がっている。一見簡単そうなこの試験。 これは立体機動装置を使う上での基本的な動作であって。これさえできないものは兵士として価値のないものだと判定されるそうだ つまらない。ここにきたとこで前となにも変わらないまんねりにただ嫌気が指し始めている。力を使うことはない、逆に手加減しなければここの連中と対等な力に出来ない それに縛られた生活をしているせいか苛立ちが溜まっていく。どう発散しようか…、試験とは違うことを悶々と考えていると己の名が呼ばれ渋々前へ出た 「よし、上げろ!!」 「………」 ベルトに紐を付け頷く。徐々に引っ張られ持ち上げられる身体。しかしながら、難しいなど全く思えない程に簡単で 少々不安定ではあるものの足を動かしても、顔を上げ空を仰ぎ見たところで微力もぶれることはなかった 「…合格だ。下ろせ」 地面へと足を付けこの集団とは少し離れたい位置へ戻り他の者達の様子を伺う。この試験に合格しようと必死になっている彼らを見つめては目を閉じた 「余裕だったね」 「………」 隣に人のたつ気配がしたと思えばそこには幾分か身長の低い女。確かこいつは俺と同じように周りに馴染もうとしなかったはず。 「珍しいな、お前が自分から誰かに声をかけるなど」 「…あんただから。あたしと同じ雰囲気するからね、興味本意で声かけただけさ」 「成る程な」 「何をやってるエレン・イェーガー!!上体を起こせ!!」 怒りの中に欠片の焦りを交えた声の方へ顔を動かすとそこには逆さの状態で宙吊りになっているイェーガーという訓練兵。何をどうやったらあんなになるのか、いや、あれも彼の素質といったところだろう。バランスを取りづらそうにしているやつは何人もいたがあそこまで大胆にいく者はアイツが最初だ 「あれも才能…か」 「あっても嬉しくないものだと思うけど」 そんなイェーガーを見て周りは笑いだす。あんなに啖呵切っていたはずなのにここで開拓地送りなのかと そう言えば彼は巨人を駆逐するとか何とか言っていたな。その彼の夢もここで途絶えるのかと思えば彼が惨めになる、夢は違うせよ同情してしまう 「………」 勝手に出た考えに顔を思わずしかめてしまう。……やはりあの一年半で俺の中の何かが変わってしまったのだろう。馴れ合うことはしないと決めたはずがこうも簡単に思考を変えられてしまうなど。自分自身、情けなくてしかたがない 「?どうしたの」 「いや。俺も随分優しい感情を持つようになったと思ってな」 「少なくとも私には目付きの悪い物静かな男にしか思えないよ」 「……」 そう、それは俺自身にしか感じられない些細なこと。まだあって間もないコイツらには到底分からないだろう こうやって俺がコイツと言葉を混じわすことでさえ。己の酔狂な行動は何に依ったのかは分からない。案外、今だ知れぬ自身の胸のうちに潜むモノが暇潰し程度にと考えたのだろう。関わらないと分からぬことがある、と 「あんた、確かロードだったね」 「…よく覚えてるな。あの大人数いるなかで、それに昨日聞いたばかりの他人の名を」 「あんたは印象的過ぎたんだよ。教官に向かって睨みを聞かせるのなんてあんたぐらいだ」 「………」 彼女を視界に移すと絡み合う視線。そのだるそうに見えて何処か静かに強い意志を宿す瞳は昔見たことがある気がした。僅かに口の端を上げて零す笑みは、だから、どうしようもなく馬鹿げたものだと自分を嘲笑うもので 「フフッ。案外退屈せずに済みそうだ」 「ならよかった。あたしはアニ、まぁ知っとくだけ知っといて。別に覚えなくてもいいから」 「あぁ」 悪人として生きてきた俺が人を守る善人としての指導を受け別の自分へと姿を変える。嫌悪に感じるそれも生きていく上の1つの知識として取り入れると思えば気が楽だ 情報はあるだけで便利。どんなにつまらないものも、必要性にかけるものでさえも持っているだけで違うものだ。ならばこの世界を知っていこう、景色を変えた場所でしかみることの出来ないものを見ていこう それが俺には必要だから (「終わったようだよ。…戻る?」) (「そうだな」) back |