01


単なる偶然は再び現れ俺を巻き込んでいく。もう、気が付いたら見知らぬ場所だなんてあの奇怪な出来事以来慣れてしまい今更驚くことはしない
俺が此方の世界に戻ってきて早1年。彼方で過ごした期間は1年と数ヵ月だったが、周りの奴等曰く俺が消息を経ったのは一日。何の冗談だと思いつつもその時のあいつらの瞳は真剣なそのもので。異世界なんざそもそもアブノーマルであって、今更時間軸が歪んでいようがその進み具合に差異があろうが大して驚くことはなかった
それからと言うものあの光は一度も姿を現さず。何事もなく航海を続け様々な島を訪れたがまだ最終地点に着かぬまま海を航る平穏な日々につまらなさも感じていることは確かだった
目を閉じると鮮明に浮かび上がる地下街での生活、そして喧嘩別れをしてしまった少年の姿。もう会うことはない、だから忘れようとあれはただの幻想であったと記憶しようとしていた時、再び現れた蒼の、相変わらず衰えることの知らない澄んだ青い光に目を奪われた

「………」

またか。結局能力者の能力なのか、ただの奇怪な現象なのか知ることなく消えていった光がそこにあった。これは彼処に繋がっているのだろうか、そうだとしても俺が再びいく必要はない
光へと向けていた視線を海へと戻す。もう視界に入れることのないように…あの日々を忘れるように

「っ…どうしたレイヴン」

くいくいと服を引っ張られたと思ったら小さく鳴き続ける愛鳥。それが何を意図しているのか見当がつかずただレイヴンの行動を眺めていた時だった

「っおぃ!!」

あろうことかレイヴンは俺の刀を足で掴むとそのまま青い光の中へ飛び込んでいく、慌てて捕まえようと手を伸ばすもそこにレイヴンの姿はない。あるのは俺とあの世界とを繋ぐ道標
どうしようもない。俺の愛刀はアイツによって持っていかれた、ならばあの烏を捕まえ刀を取り返すしか他にないだろう

「…はぁ」

再び面倒な日々が始まるのか。だるいと思うはんめん、久々の刺激に知らず知らず口角を上げた





「あら、目が覚めたの?」

「…ここは」

「私の家よ。ウォール・シーナの中心街ってところかしら」

「ウォール…」

気がついたら見知らぬ女性。聞き覚えのある単語、窓から微かに見える存在をありありと知らしめる壁。あぁ、俺はまた来てしまったのか。この世界。ぼーっとしていたのだろう、女性が大丈夫かと声を掛けてきたが首を縱に動かし辺りを見渡した。そう言えばレイヴンはどこへ…

「もう少し寝ていた方がいいわ。裏路地に倒れていたところを私が連れてきたの。…迷惑だったら御免なさい。ただ、放っておけなくて」

「いや、助かった」

いくあてもなかったわけだ、こうしてここに身をおかしてもらえるだけでも今は助かる。しかし、このままここにいても意味がないことぐらい分かっている。まずは元凶となったあの馬鹿烏を探さなければならない。横にしていた体を起こしベッドから出ようとすれば女性から静止の声

「まだ駄目よ!!今起きたばかりじゃない!?」

「もう異常はねェよ。必要ない」

「それでも私が心配なの。…お願い」

「………」

彼女は本当に心配してくれているのだろう、何故か俺に頭を下げてまだ動かないでと懇願してくる。一応彼女は恩人なわけで、ここまでされたらこちらがおれるに他ない
分かったと一言告げ再び体をベッドに投げ出した

「ありがとう」

「……どうしてそこまで?」

出ていってほしいなら分かるが彼女は出ていかないでと、俺が去ることを拒んだ。実際に傷を負ったりしていた訳じゃない、ただ気を失っていただけの俺に何故肩入れしようとするのか不思議で仕方がない
彼女は目を見開いたと思うとその表情を哀しみへと変え震える声を押さえることなく一つ一つ言の葉を溢していった。それは女が母親という立場ならしざるをえない行為。最愛の人を失ったが故にしてしまう懺悔の行動

「貴方、見た目がじゃないけど雰囲気が何処か夫と似ていて。放っておけないの。あの人この前の壁外調査の時巨人に食べられて死んだのに…、私はまだ何処かで生きてるって思ってて。だから、心配なの」

目に涙を溜めながら話す彼女はでも、あの人は生きてるはずだからと自分に言い聞かせるようにして笑った。もういないと分かっているはずなのに
そんな彼女に感傷する気になれずただ話を聞いていた。どうでもいい、その一言に尽きる
俺を助けたのはただの死んだ男に何もしてやれなかった償いのつもりか、それともただのお人好しか。どちらともとれることに違いはないだろうと自己解決をしただ天井を仰ぎ見た

「………」

これからどうする。レイヴンを見つけたところで1年前のようにあの光が長い年月現れないとしたら。正直ここで厄介になるのはごめん被る、こういう人間は好かない。目を閉じ昔読んだ此方の世界の書物を思い出す。此処には兵団という組織があることを…、ふっと思い浮かんだ言葉に眉を潜めながらも女に問うた

「おぃ、ここには兵団という組織があるのか?」

「?えぇ。訓練兵として3年間過ごした後合格した者達だけが憲兵団、調査兵団、駐屯兵団のどれかになって尽くすの」

「…そうか」

尽くす…か。人に命令されることは気に入らないが、この世界を知るには…このままここに居座って退屈な日々を過ごすよりは些かましだろう
死ぬはずはないから

「どうしたらその訓練兵とやらになれる?」

「…貴方もなるつもりなの」

男のことがチラつくのだろう視線を落とす彼女に小さく舌打ちをする。こういった類いにはどの言葉が有効なのか、覚醒している頭を緩く回転させ一つのボキャブラリーを見付ける。それは彼女の現を信じようとしない心に漬け込むもので

「アンタの男を探してきてやる」

「、え…」

「生きていると思ってるんだろ。なら俺が確かめてきてやるよ」

口は弧を描き、甘美の言葉を並べ相手を誘う。俺にとってこの女は恩人であり彼方に戻るまで、この世で再び生きる為に必要なモノを揃える道具に過ぎない。所詮、その程度なのだ
女はこぼれ落ちそうなほど大きく開いていた目を今度は嬉しそうに細める。そして、お願いしますと頭を下げた

「今は104期生を募集してるようだから書類を貰ってくるわね」

そう言い残して外へと出ていく女の後ろ姿を見送った後俺は一人堪えていた感情を表へ出す。傷付いている人間ほど扱いやすいものはない、相手の望むことを列ね、優しく言葉を紡げば簡単に信じてしまう

その事に、人のいい女を騙した所で何一つ罪悪感が残らないのはそこまで俺が堕ちてしまったということで。しかし考えたところで果てしなくどうでもよかった。悪名高い海賊なんてそんなものだろうと、思考回路を遮るように再び目を閉じた


(この世界は前回といい、今回といい俺に何を求めているのか)

(考えたところで答えなどなかった)




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