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アルミンの説得のおかげ難を逃れることはできた。俺が兵士達の、人間の敵ではないことを理解してもらえたが納得はされていないなんて分かりきっている。それでも信じて欲しかった…。いや、この作戦を成功させて信じさせる。それが俺の役目だから

アルミンやピクシス司令に呼ばれた参謀達の作戦。詳しいことはよく分からないけど俺が巨人化し巨大な岩で破られた穴を塞ぐということは理解している。人間にはできない、巨人になれるからこそ成せる方法を提案されたピクシス司令は躊躇うことなく賛同し、実行しようとしている。紹介とばかりに声をかけられ、その拳を心臓に当て敬礼の意を記し目下に集った兵士達を見渡す。ここからじゃ表情までは読み取れないが戸惑いや恐怖を身体は感じ取った。それもそうだ、こんな一端の新兵に自身の命を掛けなければならない、況してや巨人化を利用し、壁を塞ぐなど前代未聞の捨て身作戦に納得するわけがないのだ。俺が普通の兵士で同じことを告げられたら真っ先に抗議するだろう。馬鹿げている、無駄死にはすべきではないと。

「ー諸君らの任務は、彼が岩を運ぶまでの間彼を他の巨人から守ることである!」

ざわりと伝わる感情達にこっちまで押しつぶされてしまいそうになる。顔がこわばっていく、握った拳にじわりと汗がにじむ。俺だって怖いさ、必ず成功する保証などどこにもない。でもやるしかないんだ

「俺たちをなんだと思ってるんだ!?俺達は…、使い捨ての刃じゃないぞ!!」

「今日ここで死ねってよ!!俺は降りるぞ!!」

非難の声を上げ、1人、また1人と内地へ続く道へと走り去る者達がここからよく分かる。やはり、こんな作戦に賛同する奴らなんか殆どいないんだろうな。兵団に入ってる者だけじゃない、訓練兵だってここには沢山いるんだ。初めて見るだろう本物の巨人に仲間の身体が食いちぎられて行く、飛び散る鮮血、咀嚼される音。一度耳にしたら離れてくれない絶叫が身体を安全な場所へと向けてしまうなんて今に始まったことじゃない。それが人間なのだ。震える唇から静かに息を吐きチラリと盗み見た司令の表情に、優しく笑ったその顔に目を見開いた。

「わしが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!!」

「?!」

予想としていなかった命令に俺は勿論、兵士達も驚きの声をあげ動きを止める。どうして、何故、何を言っていいのか分からないのだろう戸惑う兵士たちを他所に司令は続ける

「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい!そして!」

ーーその巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者にも味わわせたい者も!ここから去るがいい!!

地鳴りの様に響き渡ったその声音は辺りを包み込み兵士の心に刃となって突き刺さった。その現場を思い浮かべたら最後、その起こりうるかもしれない惨劇から目をそらすことなど出来ないのだ。
人は恐怖に勝てる術を忘れてしまった、けれど唯一立ち向かえるとしたらそれは大切な何かを守る時。司令は人の心理をよく分かっている、だからこそこうやって多くの人達を動かすことができるのだ。

ならば俺も壁の穴を塞ぐことに全力を尽くす。調査兵団という精鋭達がいない中だろうと、多くの仲間が巨人の口の中に落ちていこうと、闘い続けよう。






「エレン、体の方は大丈夫?」

「あぁ、」

壁の上をかける。岩までの最短ルートを確認するもその周辺に巨人の影はなかった。兵士達が巨人を壁側へとうまく誘導しているおかげで何なく大岩までたどり着くことができそうだ。目的場所の近くまで来たところで立体機動に移る。絶対に成功させてやる、もし成功できれば俺は彼奴に認めてもらえんのかな。場違いなことが頭をよぎり笑ってしまう。巨人を駆逐する、己の信念は変わらず有るのにどうしても彼奴に、ロードに認めてもらいたいと欲してしまう自分がいる、可笑しな話だ。ここにはいない、氷のように冷たく、何処か憂いを帯びた深く吸い込まれてしまいそうな藍色の瞳を思い弛緩した頬をそのままに手の甲に歯を立てる。願わくば人類の希望に、…あの頃の日常が戻りますように。

(ただ憎しみを糧に、怒りを頼りに生きて来た)
(もし叶うのなら)
(あの人の隣で歩める力を下さい)




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