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視界が晴れ巨人の姿が露わになると静けさの中に僅かながら驚愕が入り混じりそれは人から人へ移っていく。巨人、奴らが倒すべき相手であり駆逐しなければならない対象。故に目の前の光景を疑わずにはいられない、まさか巨人が蒸発した場所から人間が出てくるなど信じたくはないのだろう。信じてしまえば、それは今まで築き上げられた概念が覆される事なのだから。

「あれって…、っまさか!」

「あぁ」

間違ってはいなかった。やはり人間だろうが巨人だろうが気配は変わらない、あの雄叫びも、巨人への憎悪も。お前のままだった、なぁエレン。自然上がる口角をそのままに場所を移すためガスを吹かせば慌てたようにレオン達も俺について来る。エレンを確認したアルレルトやアッカーマンは彼の元へ行きその生存を確かめると同時に己の武器を取り、周りには騒動を聞きつけた兵士達がエレンを囲み緊迫した空気が辺りを包み込んだ。

「エ、エレンのやつ巨人だったのか?巨人ってやつは人間がなってるのか?!」

「ここで喚くな。巨人の正体が人間だと肯定できるやつがいると思うか?巨人だとただただ絶望するだけだった壁内の人間に」

「…そうだな。、っそうだ!何も分からない。俺たちは…人類は巨人が何なのか知りもしねぇんだ!」

まだ現状を呑み込めていないレオンの焦った声を耳に入れながらも視線はエレン達から離さない。目を覚ましたエレンが自身が敵じゃない事を必死に訴えてはいるが、恐怖に支配された人間には人類を脅かすであろう存在の言葉など受け止めるわけもなく只管に叫び続ける。お前は巨人か、人類の敵なのかと。つくづく、この世界の人間は弱いと思うのは仕方のない事だろう。現状に焦燥し、正しい判断も下せない。エレンが巨人かもしれない、だとしたらこれは唯一、停滞した人間の世界を拡大する事ができるチャンスだ。巨人になれる人間の協力で可能性を広げられるというのに、奴らは殺せ殺せと口々に言いやがる。本当、馬鹿な奴らだ

「ロード、エレンのやつどうなっちまうんだろな」

「……」

”俺は巨人を駆逐する。その為に強くならないといけねえんだ”

こんなとこでくたばるやつじゃないだろ、…それに。

「アッカーマンやアルレルトが居るんだ、どうにか切り抜けるだろうよ。まぁ見てろ」

手を出す気はさらさら無い。傍観者であることに意味などなさないが俺自身彼奴らがどう行動し、他の兵士を納得させるのか興味があった。たった数ヶ月だが同じ場所、同じ時を過ごした連中だ、少しくらい見ていてやろうじゃねぇか。事の成り行きが見える屋根の上で腰を下ろし傍観に専念する意図を示せばレオンは先程より冷静さを取り戻したのか俺の隣でじっと下でのやり取りを見下ろした。
しかしエレンの叫びは虚しくも届かず指導者の手は上がる、あれは合図。エレンを始末するという、エレンと巨人と断定したという証拠

「ちょっ、まずいってロード!エレンのやつ!」

「……」

殺すつもりか、利用できるものさえ捨てただ恐怖に忠実で。だからこそ人類はこの壁の中で一生暮らし続けるしかないのだ、あの自由な世界を知ることなく狭い世界で満足して死を待つのか。この世界の人間は理解し難い、巨人の支配から逃れたいのならあれを使えばいいものを。本当に…、理解できない

ドォォォォォ

放たれた砲弾は確かにエレンたちの元へと飛んでいく。しかしながらそれは何かに遮られるようにして空中で破裂した。一瞬視界にとらえたそれは大きな手のようで。やはりエレンは現状を打破する唯一のものなのだと確信するには十分過ぎる光景。エレンの思いは本物なのだろう、これに関してはやつを信じるしかない。後は他の連中次第だな。

「え、ロード。もういいのか?」

「状況の一部は見れただろう。これ以上ここにいる必要はない」

「けど…エレンやミカサ達は」

「気になるならここにいればいい。お前の好きにしろ」

仲間思いのこいつに取ったら今ここを離れるのはあいつらを見捨てるのと同じとでも考えているのだろうが、勝手にすればいい。これからの展開など、予想はついている。これだけの騒ぎだ、駐屯兵団のお偉いさんが来てもおかしくはない。それに壁内の人間も馬鹿ばかりではないはずだ、利口な奴なら真っ当な判断を下すだろう。そいつらに任せるのが得策、この世界の流れに介入してはならないのだから。ならば何のために…

「何の為に、俺はここにいるんだろうな」

ずっと感じていた違和感を吐き出し屋根を蹴った。全く、悉く訳のわからない事に巻き込まれるなと吐いた溜息は重々しく騒ぎの中に溶け込んだ。

(色のない世界は生きている心地がしない)
(あの大海原が無性に恋しくなった)


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