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柱に寄りかかり下をさ迷い歩く巨人達を見下ろしながら他の奴等が動くのをただ待ち続ける。協力してくれとアルレルトから頼まれはしたものの協力したところで俺に何の利もないと判断しその話を聞き流した。此処でアイツら全員死のうがそれはただやつらの運が悪かったと言うだけで。仲間と思っていない、同じ時期に同じ訓練を受けただけの赤の他人など信用する気にもなれない上、なろうとも思わない。だからこそ、奴等に全てを任せた。生きたいと嘆くのなら自身の力でその生を掴み取ってみせろと…

「あ、ロード。ここにいたんだね」

「…遅かったな」

「色々準備に手間取ってて」

「……」

動き出した多くの気配に閉じていた目を開けた傍ら近付いてきたフーバーと言葉を交わした。それぞれが配置につき作戦は開始されるようで、あの天才と呼ばれるアルレルトがこの窮地で考え出した策がどんなものなのかと興味が湧く一方早く終わらせてくれと小さな苛立ちも積もる。ここの人間は弱いが故に面白くないと、だからこそ俺自身の力を存分に出すことができず毎日が退屈で。巨人すらも簡単に殺せてしまう以上俺を満足させてくれるような奴はこの世界に誰一人としていない。別に俺自身戦闘狂という訳ではないが戦いばかりしていたあちらとは違い戦いとは程遠い生活をしてきた今、鈍りつつあるだろう身体を保つのは巨人を倒し続けるしかないと。しかし人前で披露してしまった暁には監視がつくことなど目に見えている。そうだから待っているのだ。早くこのゲームを終らせ、壁外へ出向くことを

じっとフーバーと並び下の様子をうかがって数分。銃を持った兵士達がリフトに乗って降りてくるのを視界に入れ目を細めた。彼なりによく考え付いた作戦ではないか、ゆるりと口角が上がるのを感じながらフーバーへと視線を映した

「しくじるなよ」

「勿論っ!!」

緊張で身体を震わせながらもその強気の意志を隠すことなくしっかりと頷いたフーバーは聞こえた銃声を合図に飛び出した。それは周りの隠れていた奴等も同じ、全員が各々の標的に切りかかり見事に項を捉えたと思われたがそれは違っていて。2体ほど仕留め損ねた巨人が二人に襲いかかるのにさめざめとした視線を寄越し静かにことのなり行きを見守った。アイツらは死ぬか、それとも周りが危険を承知で仲間のためと助けにはいるのか、どちらにせよいつになったらこの本部から抜け出すことができるのか…、そろそろ面倒だ。淀む感覚に、次第に遠くなる人声に天井を仰いで視界を暗転させる。そうだ、何も律儀に奴等が巨人を仕留めるのを待つ必要などないのではないだろうか。どうせ俺にはこの作戦が成功しようがしまいが関係ない、それは自分の力でどうとにもなるからという自信があるから。それならばさっさとここを立ち去ればいい、この意味のない茶番に付き合う必要はない。

「ロードっ!!」

なんて、立ち去ろうとした俺の耳に飛び込んだのはアッカーマンの声。あぁ終わったのだと、一人思考を巡らしていた俺にアッカーマンはガスを持ってきては入れるからと俺の立体起動の菅にガスを詰め始めた


「…認めてくれた?」

「何をだ」

「皆のこと。皆必死に生きようとしている、確かに一度は諦めたかれないけど…今は生にしがみつこうとしている。貴方は皆のことを…」

「認めるも何も、もともとどうにも思ってねェよ」

「えっ、」

何をアッカーマンは伝えようとしているのか。俺に認めてもらう?馬鹿馬鹿しいほどの言葉が可笑しくつい口元を歪めてしまう。認めるも何も俺は最初からアイツラのことを気にしてはいない。死のうが生きようがどうでもいい存在であって気にかけるに値しない人間達。アイツらはただ純粋に生きたいという思いのまま行動したに過ぎないはずをこの女は認めてもらうためだとはっきりその口で紡いだ。恐らくそれはアルレルトのことであろうと容易に想像できたがあえて触れることはしなかった

「お前らはただ死ぬことを恐れただけだろ。んな下らない理由を作られちゃ困る」

「っ、下らないって。…これは立派な私たちの思い」

「もう他の奴等は本部の外へと出始めてる。…お前もさっさと出るんだな」

アッカーマンから菅を取引り立体起動につけるとそのまま彼女をおいてアンカーを飛ばした。それはこれ以上ここにいることにアッカーマンの話を聞くことに意味を感じなかったからだと考え薄暗い廊下を急いで出る。漸く見えた光にそのまま外へ行き辺りを見渡すために上へと上がれば広がる光景に僅かに目を見開いた

「あの巨人…」

「共食い?」

俺と同じようにその光景を目の当たりにしたアッカーマンやアルレルトもただ唖然としそれを眺める。俺は巨人2体に食われるあの奇行種を視界に収めそして感じる気配にまだ大丈夫だと小さく息を吐いた。そこではっと気づいたことに顔をしかめ舌打ちを一つもらす。どうして俺はあいつのことを気に止めているのか、自分自身この世界の人間には干渉しないと決めたはずで。だから周りの人間など興味の対象にはなれどそれに深入りしようなど微塵も感じなかった。しかしどうしたことか、あの餓鬼と同じようにあいつのことを気にかける自分がいて。何故だかわからないその感情に今までにないほどの嫌気が指した

「あいつは…、トーマスを食った奇行種!?」

突然空気を轟かせるような悲鳴に別の方向へいこうとしていた思考をもとに戻せば奇行種の怒濤の反撃に言葉を呑んだ。巨人に喰われ、その両手を失おうとも諦め悪く口を使って攻める奇行種にここにいる全員は唖然とその様子を見守ることしかできない
初めて目の当たりにする巨人同士の死闘に僅かながら俺自身も目を離すことが出来なくて。気がつけば巨人の蒸気で蔓延した空間がその場に出来上がり、奇行種は勝利したことを喜ばんばかりにその不自然な口から雄叫びを発すると糸が切れたように地面へ倒れ付した

「流石に力尽きたみてぇだな。もういいだろ、ずらかるぞ!!あんな化け物が味方なわけねェ。…巨人は巨人なんだ」

「いや、」

「あ?どうしたってんだロード」

「まだ、終わっちゃいねェよ」

「は?」

ずっと感じていた気配がうすらうすら濃くなっていく度にやはりあいつで間違いなかったのだと抱いていた仮定を確信へと変えていく。蒸発するということは死んだということを意味しているはずで。そして周りはそれは当たり前のことだと去ろうとするが不自然なことにこの巨人は項を削がれることなく死んでいく。今の人間の知識では補えないこの状況にしかし確かな考えを持っては蒸気がはれていくのを待つ。そう、それは仮定といいながらも真実であると分かっていたから。だからこそ、巨人の項からエレンが出てこようと動揺することもなかった



(お前の気配は)
(ずっと手に取るように分かってたよ)


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