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目の前でエレンを失って何故それが自分ではなかったのかと一人己を責め立てた。そうすることで何か変わるような気がしたから、変わってほしいと、エレンを返してほしいと叶わぬ願いをただただ祈った。あの時の僕は目の前に起こったことにしか意識がいってなくて、周りのことなど気にする余裕すらなくて。だから気づかなかった、この絶望から切り抜ける策があると言うことに。思いつくことさえできなかった、巨人を利用するなんてこの世界の理を覆すような考えに

有り得ないとコニーが声を上げ、同じような感情を表に出すようミカサが目を見開く中、その案を提示した本人はまるで僕たちがそこにいないかのように早々案を実行に移そうとする。そうそれは僕達がいなくても一人で十分可能だと言うことを表しているみたいで。長年共にいたと言うのに、彼にとって僕達は足手まとい以外の何者でもないのだと思い知らされたような気がした

"出来ねェなら付いてくるな。足手纏いはいらねェよ"

危険から遠ざけようとする優しさか邪魔な人間は必要ないという冷酷さか。彼が何を考えているかなど検討も付かない、それでもしがみついてやろうと、少しでも信用してもらおうと鈍っていた思考を元に戻し頭を回転させては皆に納得してもらえるよう言葉を選ぶ。彼についていけばなんとかなるのではないか、確信のない思いにしかし信じたいと私心を入れながらこの状況を切り抜く策を絞り出した


「この鉄砲は、巨人相手に役に立つのか?」

「無いよりはずっとマシだと思う…」

ジャンに鉄砲を持ってきてもらい無謀とも言える作戦を実行に移す準備をする中、ちらりとロードを伺えば何をすることなくただ辺りを見渡しているだけで。その我関せずという空気を醸し出す彼に相談する勇気なんか出ず、己の頭脳を頼りに最善の策を練った。それは巨人の特性を利用したもの。大勢がゴンドラに乗り込み近付いて来た巨人目掛けて散弾を撃ち込み再生するために動きを止めている隙に後ろに待機していた人達が巨人を仕留めるといった作戦。

一人ではできない

皆を信用して初めて成り立つこの作戦に僕は少しの不安を抱かずにいられなかった。皆は生きるためならと僕の案に協力してくれる、ならロードはどうだろうか。彼は恐らく本気というものを出してはいない、いや出すきすらないのだろう。焦る様子も必死になる様子もない。表情を崩すことなく、巨人がいたとしても平然としているその姿は彼にとってこの状況を切り抜ける自体雑作もないことだと言っているみたいで。静寂に包まれる場所で自分自身を落ち着かせるよう小さく息を吐いた


「運動能力的に最も成功率の高そうな7人にやってもらうけど…、全員の命を背負わせてしまって……その…ごめん」

だからと言って他の方法を見出だせるわけでもなく、この7人に全員の命を背負ってもらう勝手な考えに皆反論を唱えることなく頷いてくれる。拒否されないことに安堵し、何も反応を見せないロードのもとへ足を進めた。僕達が出会い、訓練を共に励んできた3年間で彼の事を少しは分かったつもりだ。他人を寄せ付けない威圧的な空気を纏い、少し打ち解けたと思っても何処か一線を引く。そして何より他人から命令されることを嫌い、自身の意志にのみ従うその姿勢を今まで見てきたつもりだ。僕も彼の嫌うことを押し付けるほど馬鹿じゃない、だからやってくれなんて指図するようなことは言えないし言うつもりもない
ここでロードが協力してくれないとなると死んだも同然だから

「ロード、僕からの頼みを聞いてくれないかな?」

「………」

「君は一人でも此処から生きて出られるかもしれない。けど、僕達には君の力がないと生きて壁内に戻ることができるなんて思えない」

「………」

「だから、お願いだ」

――僕達に力を貸してくれ

周りの皆が僕達を見守る中、手に汗を握りつつもしっかりとロードの瞳を見据える。ここで断られてしまったらどうしよ、何も答えてくれなかったらどうしよう。焦る僕とは裏腹にロードはただその冷めきった視線で僕を見下すだけで。震える自身を叱咤しロードが口を開くその時を静かに待った。

「…協力ぐらいはしてやる」

「っ本当!!」

「だが、始めはお前らでやれ」

「え、」

言葉の意味が理解できずその瞳をロードに向けたまま呆然とする僕にロードは呆れたように溜め息をつくともう一度はっきりと告げた。自分が動くのは僕達が食われそうになった時だけだと

「どうして?」

「ここにはそれなりに実力を持ったやつが集まってるはずだ。なら俺の出る幕はない」

「でも、」

「…ここで悠長に話してる時間はねェはずだ。さっさと行け」

それだけ告げるとロードは僕達に背を向け先に下の階へと下りて行った。彼の言うことはそう言うことなのだろうか。あれは僕達を試している。初めて巨人と戦う僕らが、一度戦意喪失し、生きることを諦めた僕らが再び"人"として生きる価値がある人間なのかを。ロードはそれをこの作戦で見定めるつもりなんだ。僕達が助けるに値する人間なのかを

「アルミン、彼奴…」

「ミカサ、これは僕達が巻いた種だ。一度生きることを諦めてしまった僕達が」

安心させるように笑うと驚いたように目を見開いたミカサも分かったと一言呟き自身も作戦を実行する準備に取りかかる。皆が僕を信じてくれる、ならばそれに答えよう
闘うことを諦めなければ、どんなに蹴落とされても這い上がってやろう。それが僕たちの答えだから



(死にはしない)
(僕達の反撃はこれからだ)


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